<意外に広がる「ダイナミック・プライシング」は、正しい情報を早く入手した者が勝つ非情な仕組み。本誌「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より>
近年、販売価格をリアルタイムで変動させる「ダイナミック・プライシング」を導入する企業が増えている。目的は収益の最大化だが、利用者にとっても、価格変動を逆手にとって安く商品を購入できるようにも思える。コロナ危機によって経済が混乱するなか、「定価」がなくなることは消費者にとってどのような意味があるのだろうか。
日本では商品は定価で買うものという認識が強いが、定価の概念は意外と曖昧である。メーカーは値崩れを防ぐため、小売店に定価販売を強く求めてきたが、それが通用したのは、世の中が貧しく、モノを生産するメーカーの力が強かった昭和の時代までである。1970年代には流通革命を標榜する大型スーパーが、80年代には家電量販店が急成長した。こうした大規模小売店が圧倒的な調達力を背景に大幅な安値販売を行ったことから、定価販売の概念は事実上、消滅した。高い店舗コストを捻出するためコンビニだけは例外的に定価販売を続けてきたが、ここ数年で、その慣行も薄れている。
いつどの店で買っても値段が同じという意味での定価の概念はとっくの昔に崩壊しているわけだが、ダイナミック・プライシングが目新しく感じられるのは、価格変動の頻度がこれまでになく高いからである。
アマゾンは、この仕組みを最も積極的に活用している企業の1つだが、まさにあっと言う間に値段が変わる。ある商品を購入し、もう1つ追加で買おうとすると、値段が変わっていることは珍しいことではない。これは購買履歴や他社の販売価格を常に分析することで、収益を最大化させているからである。
ネット通販で大きな成果を上げたことから、リアル店舗でもこの仕組みを導入するケースが増えており、ビックカメラは昨年から電子ペーパーを使って商品棚の値札の表示価格を随時、変えるシステムを採用している。これまでも量販店は他店の動向を見ながら、常に値札を替えてきたが、値札の張り替えには手間がかかるため物理的な限界があった。価格変動そのものは以前からの慣習だが、電子化によりほぼリアルタイムの変動が可能になったという点が大きな違いといえる。
欧米の航空業界やホテル業界ではかなり前から、ITを駆使してリアルタイムで座席や部屋の値段を変えるイールド・マネジメントという手法を活用してきた。あらゆる業界でビジネスのIT化が進んでいる現実を考えると、こうした仕組みはさらに拡大していくだろう。
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May 29, 2020 at 04:47PM
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