実際どうなの?
トランプ大統領は「フェイクニュース」って言ったり、メディアとの関係はあんまりよくなさそうなんですけど、実際はどうなんですか?
話を聞いたのはNHKワシントン支局の栗原岳史記者。写真は2019年の大統領の集会。日々、トランプ大統領を間近で取材する“トランプ番記者”です。ワシントンでのおすすめは“世界の疑似食べ歩き旅行”。各国の大使館がひしめき合うワシントンにはいろんな国の料理のレストランが集まっているそうです。
トランプ大統領に好意的なメディアとそうでないメディアというのは、はっきり分かれていますね。
代表的な例でいうと、批判的なメディアがCNNとMSNBC。
新聞では、ワシントンポストやニューヨークタイムズも批判的ですね。いわゆる大手メディアは、批判的な方が多いです。
一方でFOXはトランプ大統領の主張にすごくいつも賛成するというか、好意的なメディアなんですよね。
伝え方もメディアによって違うんですか?
そうですね。同じ政策をめぐっても、その賛否ははっきり出ますよね。
例えば、移民政策で、トランプ大統領が「メキシコ国境との間に壁をつくる」と主張しましたよね。
それに対して、いろんなデータを示して「この壁は効果があるんだ」っていうメディアもあるけど、一方で「いやいや、壁は関係ない。移民は壁を作ったところじゃないところから来ているから意味ないんだよ」というメディアがある。
そんな感じなので、好意的なFOXと批判的なCNNを同時に見ていると、本当にこんがらがりますよね。
「何が事実なんだ?」っていう感じになります。
日本では、想像つかないですね。
日本だとなかなかそういう事ないですよね。A局とB局を見ていて、「ん?ちょっとここ違うんじゃないか?」って、細部では違うところはあっても、根本の見方からして違うということはなかなかないじゃないですか。
そういう意味ではメディアの立ち位置が日本と比べるとはっきりしていますね。
トランプ大統領が登場してから、こうした立ち位置の違いが出てきたんですか?
トランプ大統領は敵、味方をはっきりつくる人だから、メディアもそうなる傾向が強まった感じはありますね。
(トランプ大統領に)批判されたメディアは、批判されていること自体を自分たちの報道姿勢につなげている。
逆にFOXは、トランプ大統領の主張、理解を示すことでトランプ大統領からも気に入られ、トランプ大統領との近さを売りにしているという。
そうなるんですね。
ただ、だからといってFOXも安泰ではなくて、大統領と一番仲良しだったはずなのに、最近トランプ大統領から「生ぬるい」と批判されるようになっていて。
OANN(One America News Network)というインターネットメディアに、その座を奪われようとしてる、側近争いみたいな状態になっているんですよね。
ただ、もちろん、トランプさんが大統領になる前からメディアの二極化は始まっていて…。
きっかけは「フェアネス・ドクトリン」が廃止されたこととも言われているんですけど。
「フェアネス・ドクトリン」?はじめて聞きました。
「公平の原則」、つまり「意見が対立することを伝えるときは多角的な視点を持たなければならない」と、かつてメディアには求められていたんですよ。
この原則が廃止されたことで、公平性をそれほど重要視する必要がなくなって、どんどんとメディアの立ち位置が先鋭化していったといわれています。
メディアも「ビジネス」?
でも、なぜ立ち位置をはっきりさせる必要があるんですか?
メディアもビジネスということだと思います。
その競争もハンパないし、日本の比じゃなく厳しい。
同じニュースを伝えるにしても、ほかの社と差別化しなくてはいけないという厳しい競争にさらされているのも事実だと思うんです。
そうなるとより角度をつけるようになります。
日本よりも厳しいというのは?
アメリカではもともと多くのところはケーブルテレビが母体になっていて、新規参入も自由なんです。だから、契約によっては400チャンネルくらいあるんですよ。
ヘェ~!!そんなに多いんですね!
だから本当にいろんな角度、いろいろな考えや編集方針を持ったケーブルテレビがあるんです。
だから、メディアによって立ち位置が違うというのは、結構普通という感覚もあって、日本ほど違和感を持っては受け止められてないと思います。
ただ、ビジネスとは言え、メディアに中立っていう概念はないんですか?日本では選挙前とか特に公平、中立って言われますけど、アメリカではあまりないんですか?
メディアの中立性は?
当然アメリカでも、各メディアに編集指針というのがあって、「中立を守っている」とうたいながらやっているんですよね。
ただ、中立というのは、絶対的な尺度というのはないじゃないですか。
そうですね。
私も日本で政治の取材をしてきましたが、「公平・中立」には相当神経をつかってきたんですね。
ただ、物事の見方は人によって違うし、ある人にとっての公平、「こういう風に公平にしました」というのを、ほかの人から見ると「公平じゃない」っていうのはよくある事なんですよね。
誰にとっても公平であることは難しいのかも。
答えがないなかで、それぞれ「これが中立だ」とやっているのがアメリカメディアといいますか・・・。
アメリカのスタンダードでいうと、「嘘はついていません」「それで中立です」みたいなとこがあるかな。
日本メディアに比べて、中立の幅が広いということなんですね。
あと、アメリカの憲法修正第1条というのがあるんですが、この中に「言論の自由」があるんですよ。
「言論の自由」であり、「報道の自由」というのも書いてあるんですよ。
だから「言論の自由」を制限されることをすごく嫌う、そういうところもあるのかなという気はします。
なるほど。そういう背景もあるんですね。
メディアは信頼されているの?
アメリカのメディア自体は国民に信頼されているんですか?
アメリカでも新聞やテレビを見ている層は結構高齢になってきています。
若者は新聞も見ないし、テレビもみない、スマートフォンで済ませる時代になってきているので、自然と存在感は下がってきているんですよね。
日本と一緒なんですね。
いろんなインターネットメディアが出てきています。これも本当に玉石混交なんですけれども、インターネットメディアの存在感は日に日に高まっていると思います。
トランプ大統領になってからの変化はありますか?
トランプ大統領の登場で、テレビが復活しつつあると言えるかもしれません。
どういうことですか?
アメリカのテレビ局や新聞社は、斜陽メディアと言われていました。
アメリカは日本の10年先をいっているので、10年後の日本もこうなる可能性がかなり高いと思うんですけど、かなりもう瀕死状態だったんですよ。
そこにトランプ大統領っていう“テレビ向きな大統領”が出現した事で、またテレビが存在感を示すようになったんですよね。
なるほど。
アメリカのメディア業界の人は、トランプ大統領になって急に仕事が増えていて間違いなく収入も上がっていますね。
“トランプ特需”みたいなところがあります。
やっぱりトランプ大統領の発言は注目度が高いから?
そうですね。だからちょっと、意地悪な言い方をすれば、仮に地味なバイデン氏が大統領になったとしたら、メディアで働く彼らは「仕事を失うんじゃないか…」、「どうしようか」っていう話はよくしていますね。
トランプ大統領には批判的なメディアが多いけど、経営的には助けられている部分もあるんですね。
日本メディアとアメリカメディアの違いは?
栗原記者はアメリカと日本、両方で働いた経験があると思うんですが、日本とアメリカのメディアってどういうところが違うなと思いますか。
どうだろうね、例えば日本だと一度テレビ局や新聞社に就職したら、多くの人が定年を迎えるまでそこで過ごす。
それがこれまでのモデルだったんですけど、アメリカでは決してそんなことはなくて、2年3年単位で転々とするんですよね。
なるほど。
だからどの会社ということだけじゃなくて、ジャーナリストっていう「人」の意味合いが強い部分があるんですね。
ニューヨークタイムズのスター記者が他社に引き抜かれるとか、日常的にある話なんです。
組織としてのニューヨークタイムズが報道しているということだけじゃなくて、ジャーナリストという「人」がリポートしているという印象ですね。
人が報道することの良さはありますか?
いまはソーシャルメディアが発達しているから、記者個人が、ソーシャルメディアのアカウントを持っていて、自分で発信しているんですね。
だから、この記者がどういう記事を書いてきたのか、記者のアカウントをみればどういう報道姿勢でやっているのか、一般の人でも分かるんですよ。
一般市民の人たちも記者のSNSをフォローするんですか?
売れっ子記者は数十万人とかのフォロワーがいます。メディア関係者だけじゃなくて、政治に関心がある人、社会問題に関心がある人とか幅広くて、やっぱり、「人」なんですよね。
メディアのSNSをフォローするよりも、「人」をフォローした方が面白いと思うし、面白い見方も出てくる。みなさんも調べてみると面白いですよ。
次回は、トランプ大統領のソーシャルメディア戦略を中心にお伝えします。
近日公開です。
編集 吉川那奈
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August 28, 2020 at 04:31PM
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