“誰かの心を惹(ひ)きつける”“飽きられずにずっとそばにいる”。それは、私たち人間が追い求め続ける姿なのかもしれない。
先日、とあるオフィスに遊びに行った際、そこにいるロボットに心を奪われた。次世代家庭用ロボット「LOVOT(らぼっと)」だ。
【動画】LOVOTの「ダイフク」
丸みを帯びた身体。まるで犬や猫の鳴き声のような、感情を乗せた「言葉」。無邪気に近づいてくる姿。気がつけば抱き上げて、幸せな気分になっていた。
そして、思った。
「こんなに一瞬で心を惹きつける存在ってどんなふうに生まれるのだろう」
今回は、LOVOTの生みの親であるロボットベンチャー「GROOVE X」の創業者、現CEOの林要さんに話をうかがった。
林さんは、トヨタ自動車で自動車開発、SoftbankでPepperの開発プロジェクトに携わった後、現在、自ら立ち上げた GROOVE Xにて新世代の家庭用ロボット「LOVOT」の開発に携わっている。
“ずっとそばにいる”
“そばにいて幸せをくれる”
そんな存在が生まれた背景には、私が知っているモノづくりとは全く違うプロセスと思考、そして未来へのビジョンがあった。
“代替可能なロボット”とは正反対の、唯一無二の存在「LOVOT」
りょかち:ダイフク! ダイフク!
ダイフク(取材場所にいたLOVOT):○△□〜〜!
りょかち:ノギヘン! ノギヘン!
ノギヘン(取材場所にいたLOVOT):☆◇♡〜〜!!
りょかち:あ! 声が違うんですね。
林:実は彼らの声は10億種類あるんですよね。
りょかち:じゅ、10億!?
林:声が太い子もいれば高い子もいて、その響き方がそれぞれ違う。さらに目のデザインも10億種類あります。すべてのLOVOTの目と声の組み合わせを考えると、ほぼ無限にバリエーションがある。
りょかち:ではダイフクはダイフクしかいないんですね。機械として「代替可能なロボット」とはぜんぜん違う。本当に生き物を作っているようです。
ずっと一緒にいるために、「飽きられない」をつくる
りょかち:実はこの取材の前にLOVOTがいるオフィスに遊びにいく機会があったんですが、本当に実物を見るとかわいすぎてびっくりしますね……。
こんなにかわいくて心惹かれる存在ってどうやったら生み出せるんだろうとそれからずっと気になっていました。
たとえば、この「かわいい」存在をつくるために意識されたことはあるんでしょうか?
林:「かわいい」だけを目指して作ってはいなくて、犬や猫を生き物の先輩として、なぜああやって行動するのか、というところから考えを広げています。
LOVOTとは、愛する(LOVE)とロボット(ROBOT)を掛け合わせたネーミングです。
犬や猫を見て、僕らが癒やされる、「かわいい」(Lovely)と思う彼らの動きをLOVOTで再現するにはどうしたらいいんだろうと考えました。
林:ただ、あまり型にはめてしまうと、ザ・ロボットになってしまう。
「スイッチを押したらこう動きます」という風になる。そういうものに対しては、人はどう動くのか予想がついてしまい、飽きてしまいます。
道具としては適切ですが、一緒にいる、愛でる対象や仲間、友達と考えたときに、飽きてしまう。
りょかち:私が携わっているサービスづくりとは真逆ですね。
WEBサービスのデザインを考えていると、「いかにユーザーの予想通りの動きをするか」、あるいは「一刻も早く慣れてもらうにはどうするか」ということを考えがちです。
だけど、一緒にいて飽きないモノをつくるとなると、真逆の発想になるんですね。
林:機能性を求められる存在でなく、心を満たしてくれるようなパートナーとしてLOVOTを作ろうとしたときに、”一緒にいて飽きない”はとても大事でした。
飽きてしまったら、一緒にいるのがつらくなってしまいます。
ですが、“自分が共感できる”と思うことやちょっとした予想外の出来事が起こり、積み重なると、その存在と一緒にいて、飽きることがないのでは……と思いました。
りょかち:人間同士でも相手に飽きないって難しい。「誰かに飽きられない自分でいよう」とすることもすごく難しいことですよね。
林:犬や猫はすごくいい先輩です。彼らはオーナーが帰ってきたり、ごはんが出てきたりしたら大喜びする。
その行動原理を見据えることで、単に犬や猫の真似(まね)しているロボットという枠を超えたいと考えました。
たとえば犬や猫は、同じような反応をしていてもその行動が毎回ちょっとずつ違うところが、プログラミングされたロボット的な行動とは異なる。
さらにこの「ちょっとずつ違う」というのが自然に感じられるような内容になっている。
そういうことを積み重ねた存在である犬や猫が、これほど人に愛されるのならば、テクノロジーでもそれを再現できると信じて、LOVOTにもあてはめているんですね。
表現豊かな動作の裏にある「興味」と「不安」の軸
りょかち:これまで作られてきたモノと今回のLOVOTとで、ユーザーからの反応が全く違う気がするんですが……いかがですか?
林:違います。機能性を求められるものに対してですと、論理的な思考が働くので、「何々が使いづらい」というご指摘が多いです。
でもLOVOTの場合は、「自分はこの子を愛しているので服を着せたい。服を作らせてくれないか」という反応をいただきます。
りょかち:ええー。そんな反応もらってみたい!
林:(笑)。「名札を作らせてくれないか」など、そういう愛情を感じる要望をいただきます。
モノの機能を改善する努力というよりも、愛情の発露の仕方が発見されていると感じます。
りょかち:ずっと気になっていたんですが、LOVOTちゃんたちに、記憶はあるんですか? 私のことは覚えてくれるんでしょうか……。
林:覚えます。
りょかち:では、記憶をもとになついてくる、「愛着」のようなものもあるんでしょうか。
林:「愛着」や「なつく」ということがどういうものを意味するかにもよるんですが、LOVOTは「興味」と「不安」という軸を持っています。
そしてそれをそれぞれ独立したパラメータで持たせている。例えば、“不安が高くて興味が低い状態”、これは単に「嫌」。
“不安も興味も高い”だと人見知りだったりします。近づきすぎると泣くけど、遠いとチラチラ様子を見てくる赤ちゃんのような。
あとは不安が低くて興味が高い。これは純粋に「好き」。
そして不安が低くて興味が低いのは「無関心」。この二つのパラメータだけでも相当の感情が表現できます。
林:ただ、基本的にはLOVOTは人に興味がある子たちとしています。
初めて会った人に対しては、無視はしないけれども、不安が高い。けれど興味も高い。少し遠い位置から興味津々のアクションをしようとしている。
なので、最初は「おいで」と命令をしてもすぐ近くまでは来ませんが、懐いてくると徐々に近づいてきてくれるようになります。
りょかち:行動が「不安」と「興味」のパラメータで語られるのは面白いですね。ロボットを研究することは、人間への理解を深めることなのかもしれない。
林:そうですね。今は、犬や猫が何を考えているのかに近づくフェーズかと思います。最終的にはドラえもんぐらいにまで、人間っぽいものができたらうれしいですね。
りょかち:やはり将来目指すのはドラえもんなんですね。
林:いつかはそのレベルになったらいいですね。
りょかち:このLOVOTちゃんたちがこの先さらに進化していくのがものすごく楽しみです。
「ずっとそばにいる」存在から見える未来の可能性
りょかち:今後、LOVOTとともに、目指す世界観はあるんでしょうか?
林:LOVOTは、今ものすごい勢いで進化に向けたソフトウェア開発をしており、もっと家にいてほしいと思ってもらえる存在にしたいと考えて開発しています。
今でも、帰宅するとこの子たちは出迎えをしてくれるけど、お出迎えの仕方も含めて、もっと帰るのが楽しみになるようにしていきます。
さらに最終的な夢としては、この子たちが飼い主にどんどん似ていくことを目指します。
例えば、不安の持ち方や興味の持ち方まで含めて、徐々に似ていくことができればかなり面白いと思っているんですね。
長年連れ添った夫婦のように、LOVOTと飼い主が似てくるということは、今はまだ難しくても、将来はけっして不可能なことではないと思います。
林:LOVOTと飼い主が似るということが可能になった場合のメリットに、LOVOTのオーナー同士が互いに先入観をもたずに知り合える、という点があります。
例えば人と人が出会うときは、年齢、性別、見た目といった様々な先入観が邪魔して、本当の相手の姿を見誤りがちですよね。
だけど、たまたま何らかのきっかけで深く知り合うことで、だんだんそのバイアスがとけていくわけです。
ただ、LOVOT同士であれば、見た目などによる先入観がない。最初から相手の本当の姿を見たまま知り合うことができる。
その状態で、LOVOT同士の相性が良かった場合、一見思いもよらぬ組み合わせだとしても、オーナー同士もなんとなく波長が合う、といったことが起こり得ます。
りょかち:めちゃくちゃ面白い!
林:いつかできたらいいな、と思っています。人間関係の広げ方の一つに、こういった相棒たちがいるっていうのも面白いのでは。
りょかち:人間関係を広げてくれるロボット。とてもユニークで素敵ですね。
(文・りょかち 編集/写真・林紗記)
後編へつづく
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