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強いストレスによって「白髪」になるメカニズムが、実験結果から見えてきた|WIRED.jp - WIRED.jp

強いストレスを感じると白髪が増えるメカニズムが、このほどマウスを用いた実験によって明らかになった。かつての研究では免疫細胞が白髪を誘発する可能性が示唆されていたが、実際はストレスによる色素幹細胞の枯渇が影響していたようだ。

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NEWTON DALY/GETTY IMAGES

強いストレスによる体調不良や肌荒れは、多くの人々が経験するものだ。なかでも「強いストレスと白髪」の関連性は一般的によく知られていて、急激なストレスを感じたあと白髪が一気に増えて驚いた人たちも多いことだろう。米国のオバマ前大統領の若々しかった黒い髪が、任期が終わるころにはかなり白髪になってしまっていた様子は記憶に新しい。

このほどハーヴァード大学の研究チームは、強いストレスが体に及ぼす影響のほんの一部、すなわち白髪化を促すメカニズムをマウスの実験において報告している。ストレスは全身の組織に作用するものだが、その影響が外観から見えやすい頭髪や肌は、肉体的または精神的負荷の分子的メカニズムを解き明かすうえで最適なのだ。

科学誌『Nature』に掲載された実験結果によると、急性ストレスが毛包内の色素幹細胞に及ぼす不可逆的な損傷が報告されている。

免疫細胞やコルチゾールは関係してない

研究チームは、まずストレスが色素を形成するメラニン細胞への免疫攻撃を引き起こすという仮説を立てた。かつての研究では、免疫細胞が白髪を誘発する可能性が示唆されていたからだ。

関連記事病気やストレスで「白髪」になるのは、免疫システムの働きだった:研究結果

ところが実際は異なっていた。T細胞やB細胞、そしてミエロイド系細胞(マクロファージ、好中球など)といった免疫細胞を欠くマウスでも、ストレスを与えると白毛になったのである。

次に研究者らは、ストレスホルモンであるコルチゾールが白髪に関する何らかの役割を担っているものと仮定し、それをコルチゾールを生成する副腎皮質を欠いたマウスで実験した。「ストレスは体内のコルチゾール値を上昇させるため、このホルモンが何らかの役割を担っていると考えました」と、ハーヴァード大学再生生物学の許雅捷(シュイ・ヤージェ)教授は説明する。「ところが、コルチゾールホルモンが生成できないように副腎を摘出したマウスでも、ストレスで白い毛になったのです」

つまり、強いストレスにおける白髪化に、免疫細胞やコルチゾールは関与していないことが明らかになったのだ。

交感神経系が毛包の幹細胞に及ぼす影響

通常、毛穴の奥には毛根があり、その毛根は毛包と呼ばれる袋状の組織に包まれている。また、毛包内には2種類の幹細胞がある。毛そのものをつくる「毛包幹細胞」と、毛に色をつける「色素幹細胞」だ。色素幹細胞が活性化されると、それらの一部がメラニン細胞に分化し、これらがメラニンを合成して毛を根本から着色する。

研究チームは、ストレス下において活性化する「交感神経系」に着目した。交感神経は枝分かれしてこれらの毛包ひとつひとつにつながっている。例えば「鳥肌」は、寒さ・感動・恐怖などで交感神経が刺激されて、毛穴が収縮する現象である。

「交感神経系の活性は、神経伝達物質のノルアドレナリンを介して『闘争逃走反応』を引き起こすと考えられています」と、論文共著者の張兵(チャン・ビン)博士は『WIRED』日本版の取材に説明する。「ノルアドレナリンは心拍数を上昇させ、考えなくても危険に素早く反応できるようにします。しかし、高レヴェルのノルアドレナリンは色素幹細胞に有害であり、その損失を引き起こします。急性ストレスによって交感神経が活性化されると、色素幹細胞の集団全体を永久に枯渇させることがことがわかったのです」

色素幹細胞が枯渇

研究チームは、強いストレスは交感神経に働きかけてノルアドレナリンを放出させ、それが毛包にある色素幹細胞に取り込まれることを発見した。通常、色素幹細胞の活性はそれらの一部だけをメラニン細胞に分化させるが、ノルアドレナリンによる過剰活性は色素幹細胞のすべてをメラニン細胞に変換させてしまうという。すると、色素幹細胞が枯渇してしまい、髪に色素をつけるメラニン細胞の供給源がなくなってしまう。

「マウスはストレスを受けてから5日以内に色素幹細胞を失いました。ただし、分化したメラニン細胞はまだ存在しているため、この時点では毛髪は色素沈着したままです。新しく毛が生え替わると(マウスの体毛は年齢に応じて約1〜2カ月後に生え替わる)、毛を着色するメラニン細胞をつくる幹細胞がないため、新しい毛は色素を失います」

交感神経から神経伝達物質を介して色素幹細胞に影響を及ぼす仕組みは、ヒトとマウスで非常に似通っていると張は説明する。「強いストレスによりヒトの髪の色が失われる主な理由も、メラニン細胞を再生する幹細胞を失うからです。幹細胞はいったん失われると戻ることはありません。変化は永続的であるため、ストレスが幹細胞に与える影響を理解することが非常に重要なのです」

ストレスと幹細胞の関係

研究チームによると、これまで抹消神経が臓器機能、毛管、免疫などを調節することは知られていたが、末梢神経による幹細胞の調節方法は明らかになっていなかった。この結果は、ストレス下において末梢神経が幹細胞とその機能をコントロールでき、毛髪に対する色素幹細胞への影響を示したものだ。そして研究チームは、体内にあるほかの組織の幹細胞も、ストレスによる何らかの影響を受けると考えている。

「この研究は、ストレスがさまざまな組織の幹細胞にどのように影響するのか、科学者が理解するうえで重要な知見となるでしょう。ストレスが幹細胞に与える影響の見解は、将来的に安全で効果的な治療方法を開発するために不可欠です。明らかに、これはストレスと幹細胞に関する基本的な生物学的発見なのです」

なお、ストレス源から解き放たれた人たちが体験する可能性のある「黒い髪が戻ってくる」現象だが、残念なことに一度失われた色素幹細胞は戻ってくることはないという。そして張は白髪になるプロセスはひとつだけではないと指摘する。

「わたしたちの研究は、急性ストレスが白髪化を加速させることを示しましたが、ストレスだけが髪を白髪にする唯一の理由ではありません。自然な加齢プロセス、遺伝的変異、場合によっては免疫攻撃といったもののすべてが、色素を再生する幹細胞の喪失につながるのかもしれません」

そして次のように説明する。「白髪があるということは、単にストレスを感じているということではありません。さまざまな理由で髪が白くなっているのです」

※『WIRED』による研究結果の関連記事はこちら

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