人口わずか130万人ながら、すでに4社のユニコーン企業を輩出しているエストニア。その中には、日本でも馴染みのある世界的インターネット電話サービス「Skype」も名前を連ねる。
電子的な行政システムの導入により、煩雑な作業の効率化を実現していることで、日本では「電子国家」として有名になった一方で、数々のスタートアップを世界に輩出している。それには、資源の小ささや人口の少なさ、さまざまな大国に占領されてきた激動の時代を乗り越えてきた歴史的背景も関係している。国と民間が一丸となって世界と戦っていく姿は、日本も見習うところが多いだろう。
より多くのエストニアスタートアップを成功へ導くために、エストニア政府はアクセラレータープログラムや、ハッカソンなどのビジネス・テックイベントを積極的に開催している。その中で、まだ芽が出てまもないスタートアップ企業や、個人が自然に集まって、イノベーションを起こせる洗練された「コワーキングスペース」も大きな注目を浴びている。
2016年に日本から同国に移住し、現地のタリン工科大学を卒業した筆者(27歳)が、エストニアにあるイノベーションハブをいくつかご紹介しよう。ただし、あくまでも筆者の実体験に基づく内容であることをご理解いただきたい。
エストニア最大のイノベーションハブ「LIFT99」
最初にご紹介する「LIFT99」は、エストニア最大級のイノベーションハブである。基本的には、デスクや部屋を貸し出しているコワーキングスペースとしての使われ方が一般的だが、毎週のようにスタートアップイベントやハッカソンが開かれており、筆者も度々訪れている。
エストニア最大のイノベーション・ハブ「LIFT99」
「LIFT99」で登壇する筆者
LIFT99には、多くの起業家やフリーランスたちが集まり、日々切磋琢磨しているように思える。日本からの視察も多く、実際にこちらを利用している日本人もいる。
LIFT99は一般的なコワーキングスペースというよりは、「コミュニティ」という感覚が強い。自らも「コワーキング」ではなく「コグローイング」と称しているほどである。実際に、仕事の環境や効率を高めただけの空間ではなく、コミュニティに力を入れている。
そのため、ビジネスパーソンに限らず、多くの業種の人が集まったり、数多くのイベントを開き、人の流動性を高め、アイデアがより活発に湧き出るような工夫がされている。また、子どもやペットもOKという点も参加しやすい。現在は、もともとあった建物から移動し、より広く綺麗になった。ブランコの椅子があったりと、遊び心も満載である。
建物内部の壁には「ESTONIANMAFIA WALL OF FAME」という言葉が掲げられている。ここに名を連ねる企業は、エストニアでも最も勢いのあるスタートアップである。
ここに載せられる基準は
- 年間成長率が80〜100%以上
- 年間収益が300万ドル。もしくは500万ドル以上の出資を受けている
- エストニア政府に対して高い税金を収めている
の3つだ。ここに自社の名前が載ることにより、「EstonianMafia」と呼ばれることを目指しているスタートアップも多い。
LIFT99はエストニアだけでなく、ウクライナのキエフにもブランチを置いており、ビジターでの利用も可能なため、エストニアに来た際は、一度訪ねてみてはいかがだろうか。
春を感じさせる心地の良い空間「SpringHub」
続いてご紹介する「SpringHub」は、エストニアでもメジャーなコワーキングスペースの1つであり、筆者も一時期利用していた経験がある。エストニアの首都タリンの中心からバスで10分ほどの場所に位置するSpringHubは、実は先に紹介したLIFT99の姉妹施設である。
春を感じさせる心地の良い空間「SpringHub」
こちらもLIFT99と同様に、さまざまなイベントやネットワークイベントが開催されており、いろいろな人々が気軽に集まりやすい空間になっている。SpringHubのパートナーとしてキヤノンが支援しており、日本企業とのつながりも垣間見える。
2016年11月に設立されたSpringHubは、緑と白と植物がテーマとなっており、名前にもあるように春(スプリング)を感じさせる心地の良い空間である。オフィススペースには、小鳥のさえずりのBGMが静かに流れていて、まるで吸い込まれるような澄んだ森の中にいるようだ。
低価格とイベントが魅力の「PALO ALTO CLUB」
LIFT99の近くに位置する「PALO ALTO CLUB」は、比較的新しくできたコワーキングスペースである。それにも関わらず、数多くのスタートアップイベントやハッカソンなどの大会がすでに開催されており、ここ1年だけでも筆者は何度も訪れている。
多くの企業やフリーランサーの登録があるのは、月90ユーロから利用できる価格の安さも理由の1つだろう。これからより多くの利用者やイベントが予想され、今後も成長に期待できるコミュニティ空間である。
カレッジの中に出現した「PALO ALTO CLUB」
イベントの様子と登壇する筆者
開発と議論を交わしている様子
ペットを連れてきてもOK
エストニアには、数多くの新たなスタートアップが生まれ、その1つ1つが点ではなく線でつながり、ともに国と民間を盛り上げようという仕組みが作られている。そのなかの1つが、今回紹介したコミュニティ空間だろう。ただの「コワーキングスペース」ではなく「コグローイング」としての成長空間。国、人種関係なく、さまざまな人が気軽に集まれるからこそ、新しく、革新的なアイデアが生まれ、それを支援したり、作り上げるチームともつながりやすい。
また、共同空間としてだけではなく、毎週のように開かれるイベントも大きな特徴である。実際に、ハッカソンなどのイベントから世界に飛び立っていったエストニアのスタートアップは少なくない。このようなコミュニティのデザインは、今後日本にとっても重要になってくるのではないだろうか。
齊藤大将
Estify Consultants OÜ 代表
エストニア・タリン在住。2016年にタリン工科大学物理学科入学。在学中にはエストニア小型人工衛星開発や修士研究に従事しつつ、コンサルティング会社を設立。現地ハッカソンでの受賞多数。2018年夏に同大学卒業後、エストニアでビジネスをする人のサポートを続けつつ、日本アニメなどのコンテンツ文化を広めるために、ベラルーシのコスプレイベントで審査員を務めたり、コンテンツ制作するなど、文化事業での活動を始める。国内外での登壇やワークショップなどの活動も精力的に行う、数々のスタートアップが熱視線を送る若者。タリン工科大学テニス夏大会で2度のチャンピオン。
Twitter @T_I_SHOW_global
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