北九州空港の2階出発ロビー。ある立て看板が目に留まる。「靴の汚れ落とし 無料」。平日の早朝から昼前まで、不定期で開店する靴磨き屋さんだ。店の主は、ここを拠点にする航空会社「スターフライヤー」(北九州市)の元社長、松石禎己(さだみ)さん(70)。かつてのトップが、なぜ――。
北九州市の中心部から東へ約15キロ。陸地と連絡橋で結ばれた海上空港、北九州空港。まだ夜が明けきらないある日の午前5時過ぎ、出発ロビーの手荷物検査場前のスペースに、ハットにエプロン姿の松石さんがいた。
この日の始発は午前6時20分発の東京・羽田便。1時間前には準備を終えて開店するのがマイルールだ。
「片方の靴だけでもどうですか」。松石さんが、通りかかった男性(56)に声をかける。雑談をしながら、男性の白いスニーカーに向かって手を動かすこと、5分。東京に髪を切りに行くという男性は「汚れを落としてもらえるとうれしいし、気分も良いですね」と笑顔を見せた。
赤字転落の航空会社で社長引き受ける
靴磨きを始めたのは2021年7月から。これまで子どもからお年寄りまで、約1500人の足元を磨いてきたという。革靴だけでなく、スニーカーや草履でも希望があれば汚れを落とす。「ど素人なのでピカピカにはできないが、汚れは落とせます。『きれいになった』と喜んでくれるのを見ると元気をもらえる」と松石さん。「空港から旅立つ人々の姿を見るのが楽しい。商売じゃなくて趣味。だからお金はいただけません」と語る。
長崎県平戸市出身。佐世保市内の高校から九州大工学部へ進んだ。卒業後、1975年に全日本空輸(ANA)に入社し、整備や運航を管理する部署に長く携わった。スカイネットアジア航空(現・ソラシドエア、宮崎市)副社長などを経て、14年6月から20年6月までスターフライヤーの社長を務めた。
社長就任を打診された当時、スターフライヤーは拡大路線が裏目に出て、約30億円の赤字に転落するときだった。松石さんは「故郷・九州のために働けるチャンス。ぜひやりたい」と、厳しい数字が並ぶ経営データはあえて見ずに引き受けたという。
コスト削減を進めて経営を再建し、黒字化に尽力した。その一方で、顧客満足度で評価されることにも力を入れた。
靴磨きも満足度向上の一環だ…
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