September 2022
THE RAKISH SHOE FILE 007
加賀氏のベスト・シューズにまつわる話を聞くと、最高のビスポーク靴を手に入れる秘訣が見えてくる。
根底にあるのはやはり、職人へのリスペクトだ。
text hiromitsu kosone
photography kenichiro higa
Kenji Kaga「Seven Fold」代表
1964年生まれ。言わずと知れたクラシックの伝道者であり、世界から信望を集めるネックウェアデザイナー。伝統のクラフツマンシップを心から愛し、その継承に尽力している。この日はチッチオのジャケットにロータのパンツ、マリーニのタッセルローファーといういでたち。
加賀氏には、ビスポークシューズにまつわる決め事がいくつかある。1足めはベーシックな内羽根にして、その職人の“基本”を知る。細部には口を出さず、職人のビジョンに委ねる。そして、“加点法”で評価することだ。
「ビスポーク靴は人間関係と似ていて、長く付き合っていくと最初は見えなかった魅力が浮かび上がってきます。ですので仮に第一印象が芳しくなくても、“いいところ”を探しながらしばらく時間をともにしてみる。すると、少しずつ秘められた味わいがわかってくるんです」
職人に心底から敬意を払うがゆえの寛容さ、その果てに手に入れた珠玉の3足がこちらというわけだ。
「マリーニ2足のうち、ストレートチップは1950年代のローマンスタイル。タッセルローファーは、フランコ・ミヌッチが愛用していたことで人気に火がついたベストセラーです。ローマの靴は、カドのとれた“オッサンくささ”がいい。一見野暮ったくも見えますが、履いていくと滲み出るような色気を備えているのに気づきます。谷さんの靴はフィレンツェの土着的スタイルを自らの感性でソフィスティケートした作風。骨太で力強い印象ですが、ふとしたときに繊細な一面も覗かせる。なので、都会にもよく合うんです」
靴の真価を見いだせる“加点法”の付き合い。是非とも見習いたいところだ。
名門&気鋭職人による珠玉の注文靴上:フィレンツェを拠点とする谷明氏の作品。「こちらは2足めにオーダーしたもので、去年仕上がってきました。フィレンツェの靴はコバが張り出し、ソールも厚い武骨な作りのものが多いですが、谷さんの靴はそんな土着的魅力を感じさせつつ、独自の優雅さも備えています」
中:「20年ほど前に仕立てたストレートチップ。接地面がフラットぎみで、フィッティングもビチッとしすぎず優しい感触です」
下:「こちらも20年選手。フランコ・ミヌッチがスーツにこれを合わせていたのが当時としては画期的で、大いに注目を浴びたものです。日本でも大人気を博しました」
THE RAKE JAPAN EDITION issue 46
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