靴は、履きやすくて楽なのがいい。でも、おしゃれなデザイン性もほしい。女性らしさもカッコよさも捨てがたい――。 そんな願望を追求するシューズブランド「
MANA」。伊勢丹新宿店などの百貨店や、セレクトショップ、オンラインショップで展開されています。
今西優子さん。「MANA」ショールームにて
シューズデザイナーの今西優子さんが2003年に立ち上げた「MANA」は、SNSでも注目度が高く、コロナ禍のなかでも売上を伸ばしているそうです。 「コロナ禍の期間であっても、MANAらしいデザイン性の高いものはオンラインショップで非常に人気でした。皆さん『コロナ禍が終わったら履きたい』と言ってくださったり、外出自粛で辛い時期に変身願望が出てきたのかもしれません。そういう気持ちがファッションの根幹だと思いますね」 と今西さんは言います。 意外と知らない、シューズデザインの世界。今の靴のトレンドや、選び方とは? 今西さんに聞きました。
22年秋冬トレンドは「トップスを軽く、足元を重く」
――シューズデザイナーのお仕事について聞く前に、まずは22年秋冬新作の注目アイテムと、今の靴トレンドを教えてください(価格は税込)。
メタルヒール・スクエアトゥブーツ ¥49,500 カラー: BLACK、IVORY
今西優子さん(以下、今西):ファッションが大好きな方に提案したいブーツです。ヒールがくり抜いてあってとても特徴的で、底材は厚みがあって安定感があります。 シルエットを綺麗に見せるため、足首を細めに作りました。裏材にはストレッチ素材を使い、足首にフィットするから細見えしますよ。裏地がツルツルと足になじんでくれて、見た目以上に履きやすいブーツなんです。 ヒールコンシャスだけど、とても女っぽく見えるバランス。今シーズン、おそらく争奪戦になるアイテムだと思っています。
――トレンドのスクエアトゥですね。 今西:スクエアトゥは指先が広がるのですごく楽なんです。指先にストレスがなく履きやすいので、楽ちんでありながらヒールで魅せられるブーツだと思います。
厚底Tストラップ・シューズ。カラー:BROWN COMBI(左)¥31,900、BLACK、DARK BROWN ¥30,800
――靴底にかなりボリュームがありますね。 今西:今シーズンはミニスカートやデニムが復活していて「トップスは少し軽めに、ボトムスや足元は重く」というトレンドなので、靴のボリューム感を推しています。 少しトラッドなトレンドも来ているので、クラシックなデザインにしたんです。 ――厚底ですが、大人の女性が履いてもおかしくないクラス感が感じられますね。 今西:今春位から、大人世代には懐かしい2000年代ブームが来ているんですよね。このアイテムは、そういったトレンドを取り入れながら、大人が似合うように少しトラディショナルなテイストを加えてデザインしました。 底に厚みがある分、ストラップを深めにして足の甲で押さえるデザインで、履きやすい工夫をしてあります。
ラッピングソール・ベルテッドスニーカー
ラッピングソール・ベルテッドスニーカー¥27,500 カラー:LIGHT GRAY、PINK COMBI、PURPLE COMBI、YELLOW COMBI
今西:先日、インスタライブで紹介したところ、すごく話題になったアイテムです。底材フォルムをあえてアーティスティックな台形にして、色のコンビネーションで見せています。 私は最初、「配色がベーシックな方が人気なのかな」と思っていたのですが、ピンク、パープルがとても人気でした。 モダニズムを感じるデザインや、幾何学的な色使いが新しいでしょう? スニーカーならこんなに派手な配色でも意外と普通に履きこなせてしまうんです。 ――ベルトが面白いですね。
今西:「ヒモ締めが面倒くさい」という方が増えているんですが、これはカチカチと指で押して調整できるので簡単です。ジジジッと音がするのも可愛いと思います(笑)。
――とても個性的なデザインですが、今西さんは、なぜシューズデザイナーになったのでしょうか? 今西:学生時代は武蔵野美術大学で日本画を専攻していたんです。でも日本画の世界は観る人がどうしても限られてしまいますし、「自分の作ったものを手に取って使ってもらって、リアルな反応を感じたい」という思いがありました。 元々ファッションに興味があったんですが、手のひらサイズのものを作る方がこだわりを追求しやすい気がしたんですよね。それで、靴のデザインをやりたいと考えるようになりました。 卒業後は大手靴メーカーに入社し、たくさんのことを学ばせてもらいました。ただ、世の中に受け入れられやすいのはシンプルなデザインで、私の好みはそれとは真逆だったんです(笑)。 そこで、2003年に「MANA」を立ち上げました。「MANA」とは、ハワイ語で「神秘の力」という意味があるんです。
――今西さんご自身は「MANA」の特徴をどう捉えているのでしょうか? 今西:特徴の1つは「ディテールへのこだわり」だと思います。私の座右の銘は「美は細部に宿る」。靴を構成している1つ1つの要素すべてを突き詰めたいんです。 今は時代がミニマルに変わってきたので、必要最小限で表現しながらフォルムで魅せるアート性を意識しています。ディテールにこだわることで、単にシンプルで終わらせないのが特徴だと思います。
ボリュームソール・ストレッチブーツ ¥40,700
――商品はどれも本革ですよね。やはり合成皮革とは違いますか? 今西:私自身は、「革」にとてもこだわっています。 今は世の中では合皮の靴が増えていて、少し見ただけでは革と見分けがつかないくらいです。 でも本革は、人間の皮膚と同じで縦、横、斜めに自在に伸びることができる。だから実際にはいた時のなじみ方が合皮とは全く違うんです。 また、合皮は1、2年で劣化してボロボロと表面が剥がれ落ちてしまったりしますが、本革は本当に長い間使えます。MANAの18年前の靴の修理が今も来ることがあるのですが、ヒールや中敷などのパーツは交換が必要でも、革はしっかりしてますからね。 牛革に加えて、シープ(羊革)やゴート(山羊革)などの柔らかい革を使うことで、「ずっと履きたい靴」を意識して作っています。 ――色にニュアンスがあって、ちょっと日本画っぽいかも。 今西:革を顔料で均一に染めるのではなく、透明感のあるアニリン染めをしています。アニリン染めは、塗った色のままに染まるのではなく、重ねるごとに色が変わっていくので水彩絵の具のような透明感が生まれるんです。 日本画で使う絵の具は岩から作られていて、塗り重ねることでペールトーンのような繊細な色が出るんですが、そういう透明感のある色を本革で出したいんです。日本画を専攻していたことがルーツにあるんでしょうね。
――「履いててラク」な靴にするには、どこを工夫するのでしょうか? 今西:例えば親指と小指の付け根には負担がかかりやすいので、なるべく柔らかい革を使用しています。 また、今は皆さんスニーカーに慣れているので、ヒールの高い靴よりも低い靴が好まれます。でも、ヒールが低ければラクかというと、デザインによっては足が前滑りしてつま先に負担がかかりやすかったりしてしまうんです。 ですから、私は足の第2甲、第3甲で支えて、指先には負担がかかりにくくなるよう意識してデザインをしています。 歩きやすさを追求した例としては、MANAのNo.1ヒット「ふかふかバブーシュ」は山羊革で、「ボロネーゼ製法」を使って中底を薄く作っています。足をローリングしながら歩くので、中底が固いと足が靴に付いていかなくて歩きにくいんです。また、本底も柔らかい合成クレープ材を使用しているので、歩行時に靴がぐにゃっと返りやすくなって足にフィットしやすい設計にしています。
驚くほど柔らかい「ふかふかバブーシュ」
――(バブーシュを触って)本革なのにこんなに柔らかく曲がるんですね! 今西:MANAの靴は、可能な限りスペインやイタリアの、素材を活かした味のある革を使います。水質が違うから、日本の革より柔らかく仕上がるんですよね。
――いま、安い靴がたくさん売られていて、靴業界は大変ですよね。ピンチはあったのでしょうか? 今西:2016年に靴業界に不況の嵐が吹き荒れていた時、その煽りで一緒に靴作りをしていたメーカーの製造工場が倒産してしまったことがありました。私はそのメーカーでも役員を勤めていたので、当時はとても苦労しましたね。 でも、「MANAをやめる」という選択肢は、私にはなかったです。 展示会を一度も休まずに続けながら、スポンサー探しや、お取引先への対応に走り回りました。展示会でMANAの靴を見た今の社長から、「このブランドを続けてほしい」と言っていただいて。 大変な経験でしたが、環境が変わったことで以前よりもデザインに専念できたり、新しいチャレンジに取り組めたり、そして今こうしてブランドを続けられていることが嬉しいです。
――2016年の危機的状況から、現在の好調に至る転機はいつだったのでしょうか? 今西:2018年頃からインスタライブ、2019年からはYouTubeチャンネル「
Shoe a la mode《シューアラモード》」を始めたことで、ネット上でお客様とつながる機会がすごく増えましたね。新しくファンになってくださる方も増えました。 私のモノ作りの原点には、「靴を通して、女性たちに幸せになってほしい」という思いがあります。どんなに大変でも、その思いが消えることはないんです。
<提供/コンコルディア 文/都田ミツコ インタビュー写真/鈴木大喜>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
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