前回J-CASTトレンドで「STEPN」の記事を公開したのが2022年4月。当時は暗号資産界隈での流行にとどまっていたが、5月に入ると「名前は聞いたことがある」「歩いて稼げるやつだよね」と認知が上がり、編集長にもつい最近、「盛り上がっていますよね」と声を掛けられた。
いや編集長。実はこの10日ほどでSTEPNは大暴落して、阿鼻叫喚の地獄絵図になっているんですよ。これぞ「靴磨きの少年」になってしまうのか(分からない人はぐぐってください)。
2か月で原資回収のはずが
簡単に基本ルールを紹介すると、こんな感じ。
STEPNはブロックチェーン上に作られたゲームだ。NFT(非代替性トークン)のシューズを暗号資産「SOL(ソラナ)」「BNB(バイナンスコイン)」で購入し、歩いたり走ったりするとゲームトークン「GST」が得られる。GSTを「SOL」「BNB」「USDC」の暗号資産に交換し、暗号資産取引所に送ることで法定通貨に替えられる。
シューズが2足あればGSTを消費し「mint」することで、新しいシューズを生み出せる(交配と考えると分かりやすい)。シューズの保有数に応じて歩いて得られるGSTが増えるため、シューズを増やしても、あるいはmintして作った靴をマーケットプレイスで売って利益を確定してもいい。
STEPNは、今年2月から暗号資産界隈で静かに流行し始め、「稼げる」との評判が広がると4月末に猛烈なインフレが始まった。私が始めた4月上旬の靴の価格は日本円にして10万円強。それでも十分に高かったのに、ゴールデンウイークにはマーケットに出ている最も安い物が20万円近くに高騰した。
まさに貴族の娯楽である。運営会社も急激なインフレはゲームの寿命を縮めるととらえ、靴の価格の安定化を図っていた。
魔界「B国」の誕生
ゴールデンウイークが明けると、私がSTEPNをやっていることを知っている人から「どうすれば遊べるの」と聞かれることが増えた。招待コードを渡すと全員が始めた。この頃は、初期投資に10万~数十万円費やしても、2か月ちょっとで原資回収できる計算だった。
ゲームバランスが崩れる契機になったのが、魔界「B国」の誕生だ。
STEPNは4月、それまで運営していたソラナチェーンに加え、BNBで取引するバイナンスチェーンをリリースした。その結果、ゲーム内に通称「S国」「B国」という2つの独立した遊び場ができ、靴を多数保有しているヘビーユーザーがB国に移動を始めた。初心者は「S国」、玄人は「B国」というすみ分けがなされると、B国では投機が加速、5月下旬には最安の靴の価格が70万円まで高騰した。
中国規制で投げ売りが始まった
バブルの時は、高く買ってもより高値で売れるのでみんなが殺到する。プレイヤーは70万円の靴を買い、20万円ほどのGSTを消費して生まれたシューズを100万円超で売る。「1日に50万円稼いだ」「1週間で原資回収できる」といった投稿がツイッターにあふれ、チキンレースが過熱しきった5月27日、運営が「中国本土のプレイヤーを7月15日に排除する」と発表した。
この連載は「中国トピック」を取り扱うものであり、私も中国ウォッチの一環としてこのゲームを始めた。実際のところSTEPNの中国規制は想定内ではある。中国は政策で暗号資産の取引を禁止しているし、暗号資産でなくても西側のアプリやSNSが流行するとほぼ100%排除されてきた。そのたびに市場が大揺れする。
今回もそうだった。中国規制の発表とともにSTEPNの崩壊を危惧したユーザーの投げ売りが始まった。6月初めにはB国、S国ともに靴の価格はピーク時の8~10分の1に暴落した。
個人投資家の太郎さん(30代)もSTEPN沼にはまり、損失を抱えた1人だ。4月にS国で靴を15足まで増やし、「1日で10万円稼げる」と、家族の分も靴を買って渡した。
その時は「原資回収優先」と考えていたが、B国の盛り上がりを指をくわえて見ていることができなくなり、5月下旬に友達と折半してB国で100万円超の靴を買い、mintで増やした。
「その時、即売っとけばよかったんですけどね......」
今は手持ちの靴を全部売ったとしても200万円の赤字になるので、ゲームの存続を願いながら毎日こつこつと歩いているという。
ゲーム内トークンGSTの価格も、ピーク時の10分の1になっているので(6月5日時点)、歩いて稼げる額も10分の1に減っている。
初期投資を「入場料」と割り切れるか
さて、かくいう私も靴を12足持っている。ソーシャルゲームのガチャが好きな私は、2足から始めてmintを繰り返し、双子のシューズが複数回生まれたこともあり、1か月ちょっとで12足に増えた。3足を家族に渡し、自分は9足体制で毎日45分歩いている。
過去の記事で書いたように、前歯の矯正用に用意していたお金を投じ、以降は追加投資していない。手持ちの靴を全部売り払ったら黒字のラインにはある。
ただ、「撤退」は今のところ考えていない。
学生時代から「ダビスタ」「ブラウザ三国志」「ポケモンGO」と、配合・育成、コレクション系ゲームをやりこんできて、学生時代には彼氏にプレステのコントローラーを投げ捨てられたこともある。時間を吸い取られるゲームは仕事に支障が出るので、この7、8年はぐっと我慢していたけど、STEPNは1日のプレイ時間も限られているし、ちょうどいい息抜きになっている。
「原資回収だけできれば」「早く始めたので原資回収できた」と「原資回収」という言葉を非常によく聞くゲームではある。だが、私は初期投資を「ゲームにアクセスする入場料」と割り切っており、返って来なくてもいいかという気持ちでやっているし、シューズの価格も安くなった方が、もうけにこだわらないユーザーが増えて、持続性という点ではプラスに働くように思う。
ただ、息抜きのつもりでやっていたのに、9足体制だと毎日45分歩くことになり、仕事が忙しい日は歩くことが「残業」のようになりつつある。屋内でできないゲームでもあり、梅雨や猛暑に耐えられなくなったら靴を減らすかもしれない。
浦上早苗
経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。「中国」は大きすぎて、何をどう切り取っても「一面しか書いてない」と言われますが、そもそも一人で全俯瞰できる代物ではないのは重々承知の上で、中国と接点のある人たちが「ああ、分かる」と共感できるような「一面」「一片」を集めるよう心がけています。Twitter:https://twitter.com/sanadi37
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