※当記事は緊急事態宣言以前の2020年3月に取材しました
こんにちは。福岡県在住ライターの大塚たくまです。
過去に『メシ通』でも福岡のうどんを数多く取材してきましたが、まだまだご紹介できていない個性的なうどんチェーンがあります。
それが、ほのかに透き通り、真珠のような輝きを放つ「大地のうどん」。
味的には、福岡のうどんの特徴である「やわらかい」「モチモチ」という要素はたしかにあります。
しかし、細い麺のつるつるした食感と非常に強い弾力、のど越しのよさについては、ほかに似たものがありません。
しかるに、こんな疑問を持つのは筆者だけではないでしょう。
大地のうどんって、なんでこんなに美味しいの?
今回は大地のうどんの美味しさの理由を探ってみることに。そこで触れたのは大地のうどんならではの麺づくりへの愛と哲学だったのです。
オープン初日の売上は600円
大地のうどん博多駅ちかてんにやってきました。博多駅から徒歩2分という好立地で、出張や旅行ついでに立ち寄るのにもおすすめできる店舗です。
大地のうどんの大将(創業者、ご本人の希望により氏名非公表)にお話をうかがいます。
──大将が「大地のうどん」を創業したきっかけは何だったんですか?
大将:もともと自分で何か商売がしたいと思っていたのと、子どもの頃からうどんが大好きだったからですね。北九州の津田屋官兵衛の門をたたき、修行しました。
──津田屋官兵衛さんは、「豊前裏打会」※の総本山としても知られる名店ですね。
※九州屈指のうどん同好会であり、会員には当地の名だたる店舗や店主たちが名を連ねる
大将:はい、当時から行列店でした。あの麺が大好きだったので門をたたいたんです。津田屋官兵衛店主の横山さんが、父の同級生だったんですよ。そういう縁もありまして。
──津田屋官兵衛さんでの修行を経て、大地のうどんは2005年8月より、福岡市西区上山門でスタートしたとお聞きしています。オープン当初のお客さんの入りはどうでした?
大将:オープン日のお客さんは一人です。一日の売上は600円でしたね。
──えっ。
大将:次の日も一人。オープン日に来てくださった方です。
▲福岡市西区上山門にある大地のうどん 本店
──その状況は想定して……いないですよね……?
大将:行列店の修行から独立したので、その名残で麺を切ってたっぷり準備していました。でも、そんな状況だから、毎日麺を捨てるじゃないですか。
──さすがにもったいない。
大将:一日一人じゃ、事前に切っても無駄です。それで、お客さんが来店してから麺を切るように変えました。そしたら、その麺が「うまかねぇ」と言われて評判になりまして。
日本一お客さんを待たせるうどん店
──麺がつくりたてだから美味しかったんですね。
大将:つくりたてのうどんという概念が当時の福岡にはほぼなかったんですよ。お客さんが来店してから麺を切って、湯がいて出すというお店は皆無でした。それで、口コミで少しずつお客さんが増え始めて、最終的に行列店になりました。
──なるほど。でも、もともとお客さんが一日一人だったから「来店後に麺を切る」というスタイルを始めたわけじゃないですか。お店が回らなくなるのでは?
大将:その通りです。だから私もそのタイミングで、麺を先につくっておいてゆでるスタイルに戻そうかとも考えました。でもお客さんは「つくりたてのうどんが美味い」と聞いて、行列になっているわけじゃないですか。
──それで、一日一人だから始めた提供方法のまま、営業を続けたわけですか。
大将:そうです。だから、当時は日本一待たせるうどん屋だったんじゃないですかね。行列もあるし、回転も悪い。つくりたてにこだわり、どれだけ行列になろうが、麺をその場で切り続けました。
──福岡はせっかちな土地柄で行列嫌いな人が多い印象です。クレームも多かったのでは?
大将:よく「まだか」と怒られていましたよ。待つのが嫌いな人はリピーターになりません。待っても大丈夫という人が残っていきました。それを続けていると「うどんなんかに待てるか」という人は去り、「待ってでもつくりたてのうどんが食べたい」という人だけがいらっしゃるようになります。
──お店に合ったお客さんだけが、自然にファンとなって残ったんですね。
大将:「自分のところは自分のやり方でやろう」と、お客さんに怒られながら続けてきた結果ですね。
切りたての麺でも5分注文がこなければ廃棄!
▲大地のうどんの個性でもある透き通った麺。のど越しがたまらない
──そもそもの質問なんですが……。ゆでたての麺がゆで置きの麺と美味しさが違うというのは素人でもイメージがつくんです。では、切り置きの麺と切りたての麺というのも、美味しさは違うものなんですか?
大将:全然違います。ゆでたてとゆで置きも、切りたてと切り置きも、全部全然違うんです。
──ゆでたてならどれも美味しいのかと思っていました。
大将:麺は切った瞬間から劣化していくんですよ。うちの場合、たとえば麺を切って5分で注文がこなかったら全部廃棄です。
──わずか5分で廃棄とは衝撃的です。どうして5分すぎるともうダメなんですか?
大将:大地のうどんの麺は「熟成」といって、生地をしっかり発酵させています。ただ、タイミングが大事でして。タイミングを逃すと、逆に麺の美味しさはガンと落ちるんですよ。
──なるほど。ギリギリまで熟成させて、ササッと出さないとダメなんですね。
大将:最高のタイミングで麺を切ってゆでます。ほかの食材でも「腐る直前がいちばん美味い」って言うじゃないですか。あれと同じですよ。腐ったらダメ。ゆでるタイミングを逃すと、あの透明な麺じゃなくなります。
──あの透明な麺は熟成が上手くいっている証だったと。
大将:熟成をギリギリまでやらないと、麺が透明になりません。他のタイミングだと麺は真っ白になるんですよ。さらに、熟成だけじゃなく、全ての行程で成功して、初めて麺は透き通って、輝いてくれるんです。
──「大地のうどんの麺は透き通るもの」だと、当然のように考えていました。これからは麺の見方が変わります。麺職人さんの努力の結晶が、麺の透明感とツヤとなって輝いているんですね。
ダシは味がブレないからつまらない!?
──そうなると、各店舗で製麺しているんですか?
大将:そうです。各店舗、水も違いますし。それに加えて、日によって気温も違えば、湿度も違うし、粉の状態も違います。各店舗の職人が毎日調整を繰り返していかないと、美味しい麺はできないんです。
──毎日いろんな条件を考えながら打たないといけない。
大将:麺づくりは難しいんですよ。10年以上やっていますが、まだ全然わからない。今でも悩まされます。
──とても奥が深い世界なんですね。「もうやめたい」と思うことはありませんか?
大将:ないですね。
──でも、なかなか自分の思う麺ができないというのは、つらくないですか?
大将:全然うまくいかない……って言うのが楽しいんですよ。これが簡単だったらつまらないじゃないですか。難しいから面白いんです。ずーっと麺のことばっかり考えています。でも、これが楽しいんです。
──なるほど。そういう考え方なんですね。福岡のうどんは「麺とダシの両方が主役」と思っていましたが、大地のうどんは麺が主役という考え方ですか?
大将:はい。麺が主役ですね。今日はダシのこだわりについての質問もあるんですかね?
──あ、はい。あります。
大将:決まった水、決まった昆布、決まった鰹節や鯖節の量、決まった醤油で丁寧に手づくりでダシをつくってます。ただ、ダシはですねぇ。味がブレないんですよね。
──いやいや、味がブレずに美味しいダシがつくれるのは素晴らしいことだと思いますけど……。
大将:なんていうんですかねぇ、その……。
大将:ちょっと、つまらないというか。
──えぇーっ。
大将:いや、ダシはしっかりつくってるんですよ。各店舗手づくりですし。美味しいと思います。ただ、同じレシピで、キチッと仕事をすればそんなに変わらないので。
──僕もいろんな方にインタビューしてきましたけど「味がブレなくてつまらない」という話をうかがったのは初めてです。
大将:麺とダシが自分の子どもだとするじゃないですか。
──えっ? はい……。
大将:ダシはできのよい優等生の子どもなんですよ。麺はできの悪い子どもなんです。全然言うこと聞かないし、グレたりもするんですよ。でも、かわいい。
──そう聞くと、だんだんかわいく見えてきました。
▲かわいい
大将:麺はしっかりした仕事を丁寧にやっても、何だかわからない理由で急にブレるんですよ。各職人が各店舗で毎日追求を続けていかないとムリです。でも、それが面白い。
──「大地のうどんは、きっと麺が主役だろう」とは思ってましたけど、僕が思っていたニュアンスとはだいぶ違いました。
大将:正直に話すと、「ダシが美味い」と言われるより、「麺が美味い」と言われた方が比にならないくらい嬉しいです(笑)。
名物「ごぼう天うどん」が女性に支持される理由
──大地のうどんでもっとも注文が多いメニューは、やっぱりごぼう天うどんですか?
大将:そうですね、ごぼう天うどんが一番です。
▲ごぼう天うどん(500円、以下すべて税込)
──大地のうどんのごぼう天は、とにかくサイズが大きいですよね。あと円形になっているのもユニークです。
大将:もともとは半分くらいの大きさだったんですけど、だんだん大きくしていきました。円形は最初からそうだったんですけどね。
──ボリュームたっぷりのごぼう天うどんは男性には嬉しいでしょうね。
大将:いや、実はごぼう天うどんのリピーターは女性が多いんですよ。
──えっ! そうなんですか。ガッツリ食べたい男性から支持があるかと思っていました。
大将:昔から大地のうどんには男性客よりも女性客が多いんですよ。麺が女性好みなのかもしれませんね。
──でも、あんなに大きなごぼう天うどん……。女性には多いんじゃないかなと思ってしまうんですが。
▲ひとつひとつのごぼうも大きい
大将:逆にデフォルトで最初から大きいのが女性に喜ばれているんですよ。たとえば、「ごぼう天(小)」と「ごぼう天(大)」があったら、「大」とは言いにくいじゃないですか。
──たしかに。
大将:大きいのがデフォルトだから、女性でも気兼ねなく食べられるんですよ。よく「小さいのつくって」と言われるんですけど、それをやると、大きなごぼう天が食べたくても食べられない人が出てきてしまうからやめてるんです。
「うちは原価計算をしていないんで」
──ごぼう天うどんに次いで、注文の多いメニューは何ですか?
大将:野菜天ぶっかけ(うどん)ですね。
▲野菜天ぶっかけうどん(680円)
──やはり。野菜天ぶっかけうどんはボリュームがすごいですよね。普通「天ぷら盛り合わせ」自体が500~600円くらいしますよ。あれが680円って、ちょっと信じられません。
▲天ぷらがかなり大きい野菜天ぶっかけうどん
大将:野菜天ぶっかけ(うどん)は創業当時につくったメニューです。値段設定はそうですね、うちは原価計算していないので……。
──なんと。原価計算せずに値段設定しているんですか?
大将:創業時は24~25歳くらいだったので、なんとなく「この金額かな」と値付けしたんですよね。野菜天ぶっかけ(うどん)に限らず、すべてのメニューがそうですよ。
──ということは、原価計算をしないまま、10数年間営業し続けているということですか?
大将:創業以来、原価計算はしたことないですね。値段も消費税対応以外で変えていませんよ。1杯あたりどういう利益が、とかはよくわかりません。今後も原価計算するつもりはありませんよ。
▲1杯あたりの利益は不明
──今、日本中の全経営者が仰天している図が浮かびます(笑)。
大将:原価計算をして値段を知ってしまったら、いろいろ気にしてしまうじゃないですか。材料費を。原価を知ると材料がお金に見えてしまうと思うんですよ。
──えっ。経営者としては、そうあるべきなんじゃ……。
大将:いや、たとえば、ダメな麺になって捨てるときに「これは〇〇円分くらいだ」と、人間どうしても気にするじゃないですか。思いっきり麺を追求したいのに。
──思う存分、麺を追求できるようにあえて計算しないという発想。ここまでのオーナーさんには出会ったことがありません。
実は絶品「すり身から手づくり」の丸天うどん
──注文の多いごぼう天うどん、野菜天ぶっかけうどんの他に、そんなに出ていないけど実は美味い! というメニューはありますか?
大将:丸天うどんでしょうね。うちの丸天うどんは、丸天にこだわっているので。
▲丸天うどん(580円) ※本店には取扱なし
──他のチェーンで提供される丸天うどんとどう違うんでしょうか?
大将:普通、丸天は専門の業者から買ってきて、それを揚げて提供するんですね。でも、うちの場合は手づくりです。すり身から玉子、野菜をまぜて。注文が入ってから生のタネを伸ばして円形にして揚げます。
──すり身から手づくりですか!! めちゃめちゃ美味しそうですね。
▲大きな丸天は丼全体を覆う
大将:丸天うどんを開発したのは3~4年前なんですけど、せっかくだからつくりたての丸天をつくりたいと思いまして。今まで食べていた丸天の食感と全く違います。180度違う。
──どんな食感なんですか?
大将:ふわっふわです。「こんなにやわらかいの」という感じ。
▲丸天の中は具だくさんで旨味しっかり
──そんなに手間のかかった丸天うどんが580円ですもんね。すごい。
大将:「つくりたてって、こんなに違うんだ」と感じてほしいですね。つくるのは大変ですけど「せっかくつくるなら、美味しいものをつくろう」と思ってチャレンジしてます。
各店舗の麺は「あえて統一させていない」
──大地のうどんは店舗が複数あって、各店舗で難しい麺づくりに取り組んでらっしゃるわけですよね。味をブレないようにするのは大変じゃないですか?
大将:あ、うちのうどんは各店舗によって違いますよ。統一しないようにしているんです。
──それはどうしてですか?
大将:職人によって好みも違うじゃないですか。職人が「いい」と思うものに向かって調整していっているのに、「ああせい」と言われるとブレるでしょう。
──本意じゃないことをやろうとするとブレてしまう、と。
大将:そうです。もちろん「基本」というのはありますよ。でも、各職人が自由にできる「幅」を設けた「基本」です。それを奪い、目指すうどんを完全に統一してはダメだと思っているんです。
──普通は同じ店名でやっているわけですから、味をブレないようにしようと考えると思うんですが。
大将:麺を完全に統一して、麺づくりの楽しさを職人から奪っちゃダメですよ。
──なるほど。「大地のうどん」という同じチームではあれど、一人ひとりが独立したプレイヤーであると。
大将:そうです。各店舗が独立店のようなものですね。毎日、配合を変えたりとか微調整を繰り返して、美味しい麺を追求するわけです。その楽しみをとったら、いい人材ほどやめてしまいますよ。
難しい仕事だからこそ人はやりがいを感じる
──この難しい麺づくりを「楽しい」と考えて、麺づくりの楽しさにハマり込むような人材を大切にしているわけですね。
大将:いい人材は「簡単だからここにいよう」と考える人じゃないんですよね。誰でもできる仕事だと生きがいを感じにくいと思います。難しい仕事だからこそ、探求心を持って自分で意欲的にやってくれる人材が残ると思うんです。
──お店で麺の味は違えど、「大地のうどん」として同じ部分もあると思います。逆に各店舗で共通するものはなんですか?
大将:どの店舗の店長も、僕のもとで一緒にうどんをつくった仲間です。だから、大地のうどんが目指すうどんの「基本」はしっかりあって、そこはブレません。各店舗で麺は違いますが、基本は同じですよ。あとは麺づくりへの姿勢も一緒ですね。
──どの大地のうどんの店長さんも、麺づくりの難しさを知っており、毎日こだわることを楽しむ姿勢もお持ちということですね。
大将:そうです。たとえば、東京馬場店の店長は麺づくりに関しては僕よりもこだわっていると思いますよ(笑)。僕が東京に行くと、よくけんかになります。
▲大地のうどん 東京馬場店
──えっ、どんなけんかになるんですか?
大将:「そこまでこだわるな!」「やりすぎやけん、やめろ」と(笑)。「そんなんしよったらお店が回らん」って言うんですけど。それでもこだわりますね。
──単なるチェーンではなく、一店舗一店舗が意志を持っていて、それぞれのお店に自分のうどんの世界を持った職人さんがいらっしゃるんですね。
店舗情報
大地のうどん 東京馬場店
住所:東京都新宿区高田馬場3-22-14 アビテヒデミ101
電話番号:03-3369-7190
営業時間:11:00~15:30(ラストオーダー)、18:00~22:30(ラストオーダー)※水曜・土曜・日曜はランチタイムのみ営業。
定休日:不定休
麺が自然に人を育てる
──どの店舗の店長も自ら麺を追求するのを楽しむレベルの職人に育てるのはけっこう大変なんじゃないですか? 時間もかかるでしょうし……。
大将:うちの社員は2年したら、独立採算制で店主にするんですよ。
──2年ですか! なんとなく早いような気がするんですが。
大将:2年間麺にどっぷりつかれば、メチャメチャ成長しますよ。もちろん何も考えてなければ成長しませんけど、かなり濃厚な2年になるのは間違いありません。
──それは指導法が優れているからでは?
大将:いや、勝手に育つんですよ。麺が育ててくれるんです。かたかったとか、やわかったとか。手を抜くと、答えは麺に返ってきますから。それと向き合えば、自然に育ちます。
──なるほど。本気で麺に向き合っていれば、自然とそうなる、と。そうやって麺を追求するのが楽しいと思えるかどうかが大切なんですね。
麺も人も「育てるのが楽しい」
大将:そして、お店を持ってからが重要なんですよ。お店を持たないと勉強できない部分が全体の8割くらいありますから。そこからまたどんどん成長します。
──麺と誠実に向き合ってもらえるように、社員にはどのように想いを伝えていますか?
大将:うちの社員に言うのは「ああせいこうせいは言わない。ただ、美味いものをつくりたいという気持ちだけを持って、自分で考えて」と伝えています。
▲肉かきあげうどん(780円)
──とにかく「美味いものをつくりたい」という情熱が大切なんですね。各店を巡って試食し、変化があったり成長を感じるのは楽しいんじゃないですか?
大将:そうですね、楽しいです。ずっと「麺づくり」のことばかり考えていましたが、5年くらい前から「人育て」も楽しくなってきたんですよ。うちに来て引き受けたからには、しっかりと育てようと思います。
──これからどんどん新しい職人さんとお店が誕生するのが楽しみですね。東京にもお店が増える可能性はありますか?
大将:今、全店舗で次の店長候補生が育っているんですよ。東京の店舗は高田馬場にある東京馬場店で育った店主が出てくれば、新しいお店ができますね。
──ということは、東京にお住いの大地のうどんファンは、東京馬場店の職人を応援すれば、新しいお店ができるかもしれないということですね。東京の方はぜひ東京馬場店に足を運んでほしいです!
九州屈指のうどん流派「豊前裏打会」とは
──最後に、冒頭でもチラッと出てきた「豊前裏打会」について教えてください。豊前裏打会はどのような点で共通点があるんですか?
大将:使う小麦粉やスープをとるダシは全店共通なんですけど、ダシや麺の細かい部分には決まりがありません。各店舗でバラバラですよ。
──どういう経緯で発足したんですか?
大将:最初に津田屋官兵衛から独立した人が2店舗、3店舗とやっているうちに「会としてやってみよう」となって、生まれました。
──会としての存在意義はどこにあるのでしょう。
大将:やっぱり仲間がいることですね。うどん店って、横のつながりがあまりないんですよ。よその話を聞くのは刺激になりますしね。
▲豊前裏打会を示す暖簾
──技術交流、切磋琢磨ができる貴重な仲間なんですね。
大将:「麺はどんな感じでしよる?」とか聞ける仲間は少ないんですよ。津田屋官兵衛を出発してから、それぞれ道が違うわけじゃないですか。いろんなバリエーションが蓄積していくんですよね。バリエーションの数だけ、麺の技術(ノウハウ)も蓄積されていく。
──自分だったらできない追求を他の職人はしているわけで、麺が好きな人には最高の環境かもしれませんね。
大将:どっぷりはまらないと、この仕事はできませんから。
──なるほど。豊前裏打会は大将のような、麺づくりが好きで好きでたまらない人の集まりなんですね。
大将:残っているメンバーはみんなそうですね。
──ほかの豊前裏打会のお店も巡ってみたくなりました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
大地のうどんは「麺のぼせ」集団だった
福岡では、地元の祭りである博多祇園山笠に熱中する人のことを「山のぼせ」と言います。
今回、大地のうどん創業者の大将は真の「麺のぼせ」だと感じました。
とにかく「麺」と「麺づくり」を愛していて、心から麺の追求を楽しんでらっしゃいます。
麺づくりは難しいというのは間違いありませんが、そこをあえて「かわいい」とおっしゃるポジティブさ。そんな環境あってこそ、よい職人が育つのだろうと思いました。
印象に残ったのは「原価を計算すると、思う存分、麺を追求できなくなってしまう」というお話。僕の常識がガラガラと音を立てて崩れていくのが聞こえました。
寝ても覚めても麺のことを考え続ける職人から生み出される、宝物のようなうどん。透明に光る麺は職人の努力の結晶です。ぜひ味わいに行ってみてください。
※当記事は緊急事態宣言以前の2020年3月に取材しました
店舗情報
大地のうどん 博多駅ちかてん
住所:福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1朝日ビル地下2階
電話番号:092-481-1644
営業時間:11:00~16:00、17:00~21:00
定休日:無休(年末年始のみ)
書いた人:大塚拓馬(おおつか・たくま)
福岡に住む九州を愛するライターで二児の父。グルメ、旅行、子育てに関する記事を多数執筆。便利で心を動かす記事を書きたい。取材が大好きで、情報量の多い記事を目指しています。
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August 05, 2020 at 06:00AM
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麺を究めたいから原価計算は一切しない──。「大地のうどん」仰天経営術【名物ごぼう天うどん】 - メシ通
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