こうしたスリランカ政府による迅速な観光復興施策の導入や、治安当局による治安状況の急速な安定化が功を奏し、各国が危険レベルを短期間で引き下げた。この結果、海外からの旅行客数は力強い回復を見せていた。

出所:スリランカ観光開発局(SLTDA)
月 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 前年同期比 (2019年) |
前年同期比 (2020年) |
---|---|---|---|---|---|
1月 | 238,924 | 244,239 | 228,434 | 2.2% | △6.5% |
2月 | 235,618 | 252,033 | 207,507 | 7.0% | △17.7% |
3月 | 233,382 | 244,328 | 71,370 | 4.7% | △70.8% |
4月 | 180,429 | 166,975 | 0 | △7.5% | △100.0% |
5月 | 129,466 | 37,802 | — | △70.8% | — |
6月 | 146,828 | 63,072 | — | △57.0% | — |
7月 | 217,829 | 115,701 | — | △46.9% | — |
8月 | 200,359 | 143,587 | — | △28.3% | — |
9月 | 149,087 | 108,575 | — | △27.2% | — |
10月 | 153,123 | 118,743 | — | △22.5% | — |
11月 | 195,582 | 176,984 | — | △9.5% | — |
12月 | 253,169 | 241,663 | — | △4.5% | — |
Total | 2,333,796 | 1,913,702 | — | △18.0% | — |
出所:スリランカ観光開発局(SLTDA)
図2と表1は2018年~2020年の月ごとのスリランカへの旅行客数推移だ。テロ後の5月に前年同月比で70.8%減少した後、6月は57.0%減、7月は46.9%減と、月を追うごとに減少幅が小さくなっている。その後、12月には4.5%減と前年をわずかに下回るものの、ほぼ前年同水準まで回復していた。スリランカと日本に拠点を持つ旅行代理店へのヒアリング(6月3日実施)でも、同社が取り扱った日本からの旅行客は「テロ直後こそ激減したが、19年の年末にかけて回復し、12月には2018年の水準に戻っていた」という。
しかし、通年でのテロの影響は大きい。2019年度の観光客数は、前年比18.0%減の191万3,702人で、2008年以来11年ぶりに前年割れになった。
観光収入は17.7%減、関連産業の成長率も低下
観光業に対するテロの影響は、観光客数だけでなく観光収入にも及んでいる。SLTDAの統計によると、2019年の観光収入は35億9,208万ドルで、43億8,063万ドルだった前年から17.7%減となった。スリランカ中央銀行発表資料によると、サービス産業の成長率は2.3%となり、前年の4.6%から2.3ポイント低下した。サービス産業のうちテロの影響を最も受けた部門が宿泊、飲食活動だったが、この部門に限るとマイナス4.6%で、2018年の5.7%から10.3ポイント減少したことになる。また、テロの波及効果と経済活動の一般的な減速を反映し、卸売・小売業(3.0%、1.7ポイント減)、倉庫業を含む物品・旅客輸送(1.4%、0.7ポイント減)、金融サービス・金融サービス付帯業務(2.0%、11.4ポイント減)、住居の所有を含む不動産(2.4%、1.5ポイント減)など、他の部門の成長も減速した。
出所:スリランカ中央銀行「Annual Report 2019」
観光分野への投資意欲は、テロ後も継続
テロの影響で海外からの旅行客数が減少した一方で、2019年には同分野への投資も見られた。スリランカ中央銀行によると、SLTDAの投資関連機関(IRU)は2019年、59のホテル(客室総数2,237室)への投資を承認した。また、2019年の1年間で、132のホテル(客室総数2,584室)、金額にして1億8,900万ドル相当の新規投資がIRUに提案された。このうち、66件、8,160万ドル相当が2019年後半の提案だった。テロ後も、スリランカの観光業への投資に関心が集まっていたことがわかる。
2020年第1四半期は新型コロナの影響で再び大幅減、4月はゼロに
テロから回復の兆しが見えてきた状況下で、スリランカの観光業にさらなる非運が襲う。新型コロナウイルス感染症問題だ。
2020年の海外からの旅行客数は、図2・表1のとおり。2月以降、感染症の影響から、2月は前年同月比17.7%減、3月が70.8%減と減少幅が拡大した。さらに4月には入国を禁止したため、ゼロとなった。2020年1月~4月の旅行客数は約50万7,000人で、前年同期比44.1%減となっている。
スリランカでは、2020年1月に中国人観光客1人の新型コロナウイルスの感染確認以降、国内での感染は確認されていなかった。しかし、3月中旬、イタリア人旅行客をガイドしたスリランカ人1人の感染が判明してからは、国内での感染者が急増した。
政府は、国内での感染対策として、1月28日付で中国からのアライバルビザの発給を停止(2020年2月28日付ビジネス短信参照)。3月に入り、11日にアライバルビザの発給停止(2020年3月13日付ビジネス短信参照)、16日からは欧州からの航空便を制限(2020年3月17日付ビジネス短信参照)、19日から国内全ての国際空港での商業旅客機受け入れ業務を停止(2020年3月26日付ビジネス短信参照)するなどの対策を実施した。6月2日現在も、海外からの旅行客は入国できない状況となっている。
中央銀行は、回復に長期を要すると予測
スリランカ中央銀行の4月28日付資料によると、新型コロナウイルス感染拡大の観光業への影響は、現在の感染拡大だけにとどまらない。世界経済(とりわけ、スリランカへの観光客数の多い中国、インド、欧州などの国・地域)の経済低迷が観光業の回復を妨げ、長期的に影響を及ぼす可能性があるとしている。
スリランカの2019年の旅行客数上位10カ国について、新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数、IMFが4月14日に発表した各国の経済成長率予測を列挙したのが、表3だ。中国、インドは、2020年の経済成長率がそれぞれ前年比4.9ポイント減、2.3ポイント減となっている。特に欧州は厳しい状況で、旅行客数2位の英国、4位のドイツ、6位のフランスいずれも、2020年の経済成長率がマイナス予測だ。
順位 | 国名 | 海外からの旅行客数(人) | 新型コロナウイルス 感染状況 (人、%) |
経済成長率予測 (IMF)(%) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2018年 | 2019年 | 増減率 | 感染者 | 死亡者 | 死亡率 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | ||
1 | インド | 424,887 | 355,002 | △16% | 145,380 | 4,167 | 2.87% | 4.2% | 1.9% | 7.4% |
2 | 英国 | 254,176 | 198,776 | △22% | 261,188 | 36,914 | 14.13% | 1.4% | △ 6.5% | 4.0% |
3 | 中国 | 265,965 | 167,863 | △37% | 84,543 | 4,645 | 5.49% | 6.1% | 1.2% | 9.2% |
4 | ドイツ | 156,888 | 134,899 | △14% | 179,002 | 8,302 | 4.64% | 0.6% | △ 7.0% | 5.2% |
5 | オーストラリア | 110,928 | 92,674 | △16% | 7,118 | 102 | 1.43% | 1.8% | △ 6.7% | 6.1% |
6 | フランス | 106,449 | 87,623 | △18% | 142,482 | 28,379 | 19.92% | 1.3% | △ 7.2% | 4.5% |
7 | ロシア | 64,497 | 86,549 | 34% | 362,342 | 3,807 | 1.05% | 1.3% | △ 5.5% | 3.5% |
8 | 米国 | 75,308 | 68,832 | △9% | 1,618,757 | 96,909 | 5.99% | 2.3% | △ 5.9% | 4.7% |
9 | モルディブ | 76,108 | 60,278 | △21% | 1,395 | 4 | 0.29% | 5.7% | △ 8.1% | 13.2% |
10 | カナダ | 52,681 | 48,729 | △8% | 85,103 | 6,453 | 7.58% | 1.6% | △ 6.2% | 4.2% |
出所:(1)旅行客数:SLTDA、(2)新型コロナウイルス感染状況:WHO(5月26日)、(3)経済成長率予測:IMF World Economic Outlook(2020 4月)
こうした状況の下で、スリランカ中央銀行は3月23日、観光や物流、アパレル産業などの中小規模事業者に、6カ月の債務返済猶予を認める通達を出した。また、EUは4月9日、新型コロナウイルスで打撃を受けたスリランカの観光産業に対して350万ユーロの助成金提供を発表 。このように、外国政府も支援の手を差し伸べている。
5月26日には、新型コロナウイルス感染防止タスクフォースが大統領に対し、8月1日から空港を再開し、海外からの観光客を受け入れることを提案したと大統領府が発表(2020年6月2日付ビジネス短信参照)。第1段階として、観光開発局に登録されたホテルやレストランで室内での飲食提供を再開するとし、観光業の再始動に向け準備を進めている。
テロからの回復の兆しが見えた直後に、新型コロナウイルスという新たな脅威にさらされたスリランカ観光業。この難局をどう乗り切るか、今後の動向に注目が集まる。
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June 08, 2020 at 11:51AM
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