世界各地に感染が拡大する新型コロナウィルスは、人類にとってまさに「未知との遭遇」とも言うべき、目に見えない敵だ。その敵と対じし、さらなる拡大をどう抑え込むのか、医療の最前線にいる専門家たちが格闘を続けている。そんな中、世界から注目を浴びる地域の一つが、香港だ。香港特別行政区政府の初動対応は早く、ことし1月25日には「緊急事態」を宣言、春節の祝賀行事を中止し、観光施設を閉鎖するなどの対策を次々と講じた。そこには2003年、香港で1755人が感染、うち299人が死亡したSARS(重症急性呼吸器症候群)の苦い経験があった。今回のパンデミックでは、人口745万余りの香港で、感染が確認された人数は1048人、死者は実に4人にとどまっている(5月11日現在)。香港の経験から、われわれは何が得られるのだろうか? 感染症対策の指揮を執る、香港大学医学院長のガブリエル・レオン教授に聞いた。(国際放送局ワールドニュース部 榎原美樹)
「人類が免疫を持たないウイルス」
A:まず知っておくべきことは、このウイルスが、これまで私たちが見たことのない病原体で、人類は全く免疫を持っていなかった、ということです。ウイルスの宿主は小さな哺乳類で、まだ確実ではないものの、中国にいるキクガシラコウモリが自然宿主だと見ています。
特徴として、臨床的に症状に大きな幅があるということです。感染しても、それを全く自覚せず、無症状か、それに近い状態で回復する人々がいます。次に、感染後ある程度の症状を示して回復する人たち。比較的穏やかな症状から、重度の肺炎になる人もいますが、最後には回復します。そして、割合は小さいものの、重篤化して人工呼吸器が必要となり、集中治療が必要となり、最後に死に至ってしまう人たち。
しかし、どんな状態の人が、なぜ重篤となるのか、そして、なぜそうならない人もいるのか理由はまだわかりません。わかっていることは、高齢者が深刻な病状、死の危険にもさらされる可能性が高いということです。
人類のコミュニケーション手段をねらうウイルス
A:人間がコミュニケーションをする手段である、しゃべるとき、そして食事をするとき、口から飛沫が出ます。くしゃみやせきをするときも、広範囲に飛沫(ひまつ)が飛びます。このウイルスはその呼吸器飛沫を経て、感染します。一部にエアロゾル感染(小さな飛沫による感染)が起きている可能性はあります。いずれにしても、コントロールが非常に難しい形の感染です。
感染の20~40%は、無症状、あるいはほんの少しだけ症状のある、潜伏期間の感染者が感染源となっていると見られます。そして平均的に、1人の感染者が2人から3人を感染させると見られています。感染者の実際の数は、報告されているよりも、もっと大規模だと見ています。
香港での死亡例は4人で、感染者は1000人強ですが、致死率については単純に1000分の4と計算しないほうがいい。なぜなら、最近入院した患者たちについては、まだ結果がどうなるかわかりませんから。
だからこそ、高齢者を守る必要があり、介護施設や老人ホームなどの施設を保護しなければなりません。そこから一気に感染が広がる可能性もあります。
香港では、1月下旬の緊急事態宣言とともに、学校の休校や公務員の在宅勤務に踏み切った。迅速な対応が奏功し、3月上旬、いったん感染拡大は抑え込まれたように見えた。ところが3月中旬、欧米諸国から戻ってくる市民らがウイルスを持ち込むケースが目立ち始め、感染者が再び増加。これを受けて香港政府は、過去2週間外国に滞在歴のある人々に対して入境の際、2週間の検疫を義務付けるとともに、すべての非香港市民の入境も禁止。さらに、5人以上が公共の場で集まることを禁じ、バーやカラオケなどの営業停止を求めた。公務員も再び在宅勤務となった。
<健康の保護>と<経済の保護>のバランスをどうとるか
A:感染症対策には、3つの柱となる戦略があります。
1つ目は、国境閉鎖などの制限です(香港の場合は特別行政区への入境)。今ほとんどの国が、外国との国境でなんらかの制限を実施していて、大きな国では、大都市間の移動なども制限しています。
2つ目は、検疫と隔離です。この2つを効果的に行うには、大規模なPCR検査と濃厚接触者の調査が不可欠です。
そして3つ目が、物理的に人と人との距離を保たせる措置です。長距離の移動はしない、不要不急の外出はしない。人との接触の機会を減らし、感染しあう確率を減らす、いわゆる“ロックダウン“と呼ばれるものです。(※日本は、都市封鎖、いわゆる“ロックダウン“はせず、政府が接触の機会を減らすよう要請しています)
この3つを行う時には、それぞれの内容や目的を、市民にきっちりと知らせる必要があります。国境閉鎖の目的は、感染の流入あるいは流出を止める、というものです。検疫と隔離は、感染者を隔離して治療するとともに、濃厚接触者をたどり、その人たちも、自己隔離あるいは隔離施設に入ってもらう、というものです。
感染拡大のどの段階でこれらを実施すべきなのか、適当な時期というものがあります。感染拡大の状況によっては、実施したところで意味がないこともあるからです。
A:市民の健康の保護は、何をおいても第一に優先されるべきです。しかし同時に、経済も守らないといけない。経済が大きく影響を受ける場合、それがどれほどのものになるのか、そして、その際、どの部分を犠牲にする、というようなことについても、透明性を持たせないといけない。
<健康の保護>と、<経済の保護>に加えて、<社会的な合意>という要素も重要です。それは市民の精神的、感情的な満足度、強硬な措置に対する社会の理解と言い換えてもよいかもしれません。
非常に厳格な措置をとれば、その影響はすべての人におよびます。市民全員がその措置にきっちりと参加し、順守してくれなければ意味がありません。
ロックダウンは永遠にできる措置ではありません。人々が我慢できる限度がありますから。<健康の保護><経済の保護>、そして<社会の合意>の3つの要素が、常に引っ張り合いをします。その綱引きはこの先、パンデミックが収束するまで、最終的には人口が十分な免疫を持つ時まで続くのです。
香港政府は今月5日、1月から休校していた学校を、今月27日から段階的に再開するなどの制限措置の段階的緩和を発表した。営業停止となっていたスポーツジムなどの再開を認め、これまで5人以上の集まりは禁止だったものを、9人以上と人数を増やした。しかし、感染拡大への警戒を怠るわけにはいかないという。
科学を信じ、長いマラソンをともに走ろう
A:香港では、ウイルスの感染拡大を抑制する措置をとり、少し緩和し、また抑制し、今回の再び緩和の段階に入りました。ここから先しばらくは、こうした<抑制と緩和>のサイクルが続くことになります。それは、最終的には、人口全体の60~70%が免疫を持つまで、続くことになります。免疫は、ワクチンが早く開発できれば、人々がワクチン接種をすることで免疫をつけることができます。
しかし、ワクチンがそんなに早くできない場合は、“感染して回復する“ことを経て、全体として免疫を持つようになるのを待つしかないのです。ですから、私たちはこれから、何回かの<抑制と緩和>を繰り返し、パンデミックが消えてゆくのを忍耐強く待つことになります。
A:まず、1年延期の決定は、日本政府、国際オリンピック委員会双方にとって、勇気のいる、そして正しい決断だったと思います。
来年開催ができるかどうかは、まさに今、世界各地で行われている、血清抗体検査の結果によると思います。この抗体検査によって、世界のどの地域のどのぐらいの人が、すでに第一波の感染拡大によって、新型コロナウィルスに対する抗体を持っているのかを、推定できることになります。
もしも、かなりの割合の人が、実はすでに免疫を持っていたとして、さらに、ワクチン開発にも有望な候補があり、世界の人口の半分ほどの人に接種できるよう、製造と分配が素早くできる、ということになれば、パンデミックの収束は早くなります。
しかし、もしその抗体検査によって、第一波の流行で、そんなに多くの人が感染しておらず、抗体も持っていないということがわかった場合は、その先もまだ、先ほど言った<抑制と緩和>のサイクルを続けなければいけないということになり、パンデミックの収束には、さらに長い時間がかかってしまいます。
ですから、いくつかの研究の結果いかんです。こうした調査はWHO(世界保健機関)が主導、調整しています。数か月のうちに状況は、今よりは明らかになってくると期待します。
A:第1のメッセージは、世界各地で人々の命を守ろうと働いている医師や看護師、検査技師ら医療従事者に、心の底から感謝を示したいと思います。医療現場の最前線で戦い、患者の世話をする彼ら・彼女らは、自分の身の危険を顧みず働いています。
第2に“連帯の意識”です。このパンデミックによって、今世紀最大の“医療の不公正”を生み出さないか、世界が試されています。われわれは、とりわけ所得の低い国々と連携する必要があり、一方でもちろん、自分たちの社会の中にいる弱者も救わなければなりません。
そして最後に、感染対策は“科学“に基づいたものであるべき、ということです。科学を信じるとともに、医療の力を信じ、このパンデミックを収束させましょう。この戦いは、長いマラソンになります。世界のすべての人々が、同じ船に乗っているのです。互いに協力し、思いやりを示し、この非常に困難な時期だからこそ、“人間性“を発揮させようじゃありませんか。
20世紀末以来、鳥インフルエンザやSARSなどの感染症の脅威に直面してきた香港は、迅速な対応で今のところは抑え込みに成功しているように見える。しかし、当然に市民は人間であり、「自粛疲れ」がないわけではないらしい。だからこそ、レオン教授は「決して油断してはならない」と警戒の姿勢を緩めず、目に見えないウイルス相手の対策は、感情に流されない科学に基づいた冷静な判断が求められるのだ、と念を押した。
国際放送局ワールドニュース部
榎原美樹
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May 11, 2020 at 03:05PM
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