「4月1日に緊急事態宣言が出される」といったデマ情報が大きく拡散するなど、「不確実な情報の感染」が日に日に増えている。世界保健機関(WHO)が今回の流行を「未知の領域」というように確かな答えがどこにもない中なので、噂の伝播はある意味仕方ないのかもしれない。
ただ、このような時だからこそ冷静に知る努力は必要と考える。
そこで、私が所属する構想日本ほか3者で共同開発した、政府の事業が検索できるサイト「JUDGIT!(ジャジット)」を使って、国はこれまで感染症関連でどのようなことをしてきたのかを見ていきたい。
事業検索サイトで「感染症」関連事業を調べる
JUDGIT!は、政府が毎年度作成・公表している「行政事業レビューシート」をデータベース化し、国の予算や事業をキーワード検索できるサイトで2019年7月にリリースした。「行政事業レビューシート」とは、政府が行っている事業ごとに、目的や事業内容、予算額、支払い先など約30項目を統一様式で記載したもので、毎年度約5000枚のレビューシートが作成・公表されている。JUDGITでは、2015年度から19年度の5年分のレビューシートの情報を掲載している。
JUDGITの「行政事業検索」で「感染症」と検索すると105件がヒットする(行政事業レビューシートの「事業名」「事業の目的」「事業概要」の中に「感染症」というワードが入っているものが検索に引っかかる)。そのうち、2019年度に実施している事業を絞り込むと87件が該当する(実施年度はレビューシートの「事業期間」で「2020年度」以降になっているか「終了予定なし」の事業が該当するが、中には既に終了している事業もあるので留意が必要)。
該当した87件を省庁別にみると、一番多いのが厚労省で64件、他は外務省16件、文科省3件、環境省と農水省各2件。厚労省以外の省庁の事業はODAなど国際的な感染症対策の関連事業が多くなっている。
厚労省の事業の中に、たびたびニュースに出てくる「感染症指定医療機関」の運営費がある。
事業目的は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第62条に基づき、都道府県及び医療機関の開設者に対し感染症指定医療機関の運営費を補助することにより、感染症患者に良質かつ適切な医療の提供を行う」。
具体的には、感染症指定医療機関の運営に必要な光熱水料、燃料費、備品購入費等に対する補助で、特定感染症指定医療機関はかかる経費の全額、第一種及び第二種感染症指定医療機関は1/2の補助率になっており、2019年度予算で8.7億円。
レビューシートの活動指標からは、この補助の対象となる医療機関は平成30年度(2019年度)末現在で406あることがわかる(31年度は410に増加)。ちなみに内訳は、特定感染症指定医療機関が4(成田赤十字病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、常滑市民病院、りんくう総合医療センター)、第一種感染症指定医療機関が55、第二種が351あり、病床数は全体で1871床ある(内訳は厚労省ホームページより)。
客観情報を知ることで噂に右往左往しない考えを持つ
新型コロナウイルスの感染者がこのまま増加の一途をたどると、感染症指定医療機関のベッドが足りなくなるという指摘がされている。オープンデータを基に作成されているサイト「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」によると、東京都内の要入院患者が395人(陽性436人、退院36人、死者5人、3月29日現在)だが、都内の特定・第一種・第二種の感染症指定医療機関病床数が118床なので、既に大きく不足していることになる。実際にはそれぞれの医療機関で受入れの数を増やすなどで対応しているが、このままでは医療崩壊を招いてしまう。だからこそ、いかにピークをずらしながら退院者数を増やして対応できるようにするかを考える必要が出てくる。さらには、医療体制を強化する観点から、運営費の補助金を上げることでして医療機関数を増やすことも検討する必要があるだろう(この補助金のほか「保健衛生施設等施設・設備整備費補助金」として指定医療機関の設備整備のための補助がある)。
このほか、「感染症発生動向等調査費」という事業がある。まさに現在行われている、感染症の発生状況を全国規模で調査したり、感染症の流行に関する情報を全国規模のオンラインシステムにより収集・分析・還元している事業だ。
また、この事業の一部には、「新型ウイルス系統調査・保存を実施することにより、新型インフルエンザの大流行等に備え、ワクチンを緊急に製造するための体制整備」(レビューシートより)も含まれている。事業費は3.5億円(2019年度)。
具体的に何お金が使われているか、「支出の流れ」を見ると(JUDGIT!から厚労省の行政事業レビューシートのページにリンクが貼ってある)、下図のようになる。
各都道府県に対して、集団免疫の状況把握や病原体の検索の調査などに5100万円支出したり、感染症に関する情報収集システム(感染症サーベイランスシステムなどの運用保守に7300万円支出していることなどがわかる。
現在、東京都など感染者が増大している都道府県の担当職員は、毎日の感染者情報の把握・公表のために疲弊しきっていると聞く。AIの活用などによって、業務量を落としつつもサービス水準を高めるための方策を今後考えていく必要があるのではないだろうか。
上記は、「感染症」関連の事業の一例である。「感染症」だけでなく「ワクチン」や「ウイルス」で検索すると、他の事業も引っかかってくる。
世の中のトピックを国の事業につなげる
今まで私たちが、国の事業を調べようとすると、膨大な情報量の予算書を眺めるか、もしくは各省庁のホームページから行政事業レビューシートを個別に見るくらいしか手段はなかったが、JUDGITによって、一覧性を高めることができたと思っている。特に、行政事業レビューシートは毎年度5000枚以上が公表されているため、JUDGITで掲載している5年分、約25000枚のレビューシートを個別に調べようとすると、途方もない作業になる。これを、毎年度継続している事業(同じ事業を記載しているシート)に集約することで、約7200枚にまとめている。
ちなみに、JUDGITを使うと、国の事業を受注している企業も調べることができる。「行政事業レビューシート」の項目の中の「支出先上位10者リスト」によって、それぞれの事業費が、具体的にどの事業者・団体にどのような名目で支出されているかがわかるようになっている。
例えば主要支出先検索」で「感染」と検索すると、「一般社団法人日本感染症学会」が出てくる(キーワードが含まれる団体が該当する)。この法人は、厚労省が行う「院内感染対策事業」の院内感染対策講習会を受託していることがJUDGITからわかる。
この機能は、感染症関連に限らず、「この会社はこのような事業にまで手を出していたのか」といった発見のほか、これまで国との関わりがなかった事業者にとって同業者が受注している事業がわかるので、新たなビジネスチャンスになる可能性もある。
JUDGITを使うと重複事業が簡単にチェックできる
最後に、JUDGIT!から見えることを一つだけご紹介したい。
トップページの「行政事業検索」からキーワードで「まちづくり」と検索し、「2019年度」「補助事業」で絞り込んでいくと28件がヒットする。
国土交通省は、都市局では「景観」、水管理・国土保全局ではハード面など、様々な切り口で多くの事業メニューがあることが見えてくる。国土交通省以外にも、文化庁は「歴史活き活き! 史跡等総合活用整備事業」として文化・歴史の観点から、スポーツ庁は「スポーツによる地域活性化推進事業」としてスポーツの観点からのまちづくりの補助事業があることがわかる。
しかし、補助を受ける側の中心である市町村は、各省庁が示す補助事業の「趣旨」ではなく、「自分たちが行う事業に合致する補助要件のものはあるか」という観点で探すことが多いだろう。実際に、ある自治体では、文化庁の補助金が取れなかったため、同じ内容で国土交通省の補助事業に手を挙げたケースもある。これは、「まちづくり」というワードを入れておけば予算を取りやすいという事情があることも示している。「まちづくり」を目的とした補助事業がこれだけ細分化し、ある意味流行りのようになっている現状も見えてくる。
このサイトやレビューシートを見るだけで、事業の良し悪しが判断できるわけではない。まずは事業の全体像や行っていることを客観的に知ることを目的にしたものである。新型コロナウイルスの政府の対応には色々な意見があるが、これまでやってきたことを客観的に知ることで、これまで説明したような新たな発見もある。
現状の取組みを把握することは、私たちが情報に右往左往せず、正しく恐れるために必要ではないだろうか。
是非、JUDGIT!を使ってみていただきたい。
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March 31, 2020 at 04:12PM
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