名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登
フレンチトラッドを体現する靴の名門
フランス発の本格トラッドシューズにおける名手として、我が国のファッション通からも強く支持されるジェイエムウエストン。その始まりはフランス中部に位置するリモージュにて、エドゥアール・ブランシャールが開いた靴工房にある。
「トラッド」の香りが高いのは、2代目のユージェーヌが米国ボストンにて、グッドイヤー製法と呼ばれる英国由来の靴製法を学びブランドに取り入れたから。その完成型の代表が、21世紀の現在も傑作と謳われるシグニチャーローファー♯180(1946年初出)だ。要素は確かに英国的であるものの、同時にフレンチらしい美観も確立させている。靴匠としての技術力に加え、次世代を見つめる姿勢を常に持つのもジェイエムウエストンの名門たるゆえん。
2018年にはパリ市立モード美術館の元館長、オリヴィエ・サイヤールをアーティスティックディレクターとして招聘し話題となった。なかでも2020年からスタートした「ウエストン・ヴィンテージ」は、異色のディレクターらしい取り組みのひとつである。一旦使命を終えたジェイエムウエストンの製品を買い戻し、修理工房で再生し新たな一足として販売するというもの。SDGs的でもあり個性的かつ多様性をも感じさせる打ち出しは、シューズブランドの新たな一手として、世界から注目を集めている。
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