考えてみればここ数年、冠婚葬祭等を除けば、スニーカーしか履いていない。こんな状況は20代以来のことかもしれない。そもそもコロナ禍で外出自体が減っていたし、出掛けなくてはならない時も、ついつい「まぁスニーカーでいいか」と履き慣れた靴を選んだ結果だ。
そろそろ革靴も履いてみたいとは思っていたが、最近のスニーカーは靴底も厚く、クッション性もあり、快適そのもの。革靴の正統的な佇まいは、それはそれで嫌いではないのだが、底まで革でつくられた本格的な革靴の履き心地はスニーカーのそれには到底及ばないもの。ラバーソールの革靴を玄関で履いてみたことがあるが、それでも長く歩ける自信がなくてスニーカーに履き替えたこともある。それにアスレジャースタイルのブームではないが、昨今のカジュアル化したスタイルを考えると、昔流の正統的な革靴では全体の雰囲気と合わないこともある。これまでと違ったデザインの革靴があってもいいのではとずっと思っていた。
半年くらい前だろうか、GMTという輸入靴を専門に扱う会社の展示会に並んでいたのが、スペインのシューズブランド、カラハン(CallagHan)がデザインした革靴だ。アッパーに光沢あるレザー、厚底でクッション性が高そうに見えるソールが付けられたモデル。革靴とスニーカーが融合した、いわゆるハイブリッドモデルだ。
以前にもこうしたハイブリッドな革靴を履いた記憶がある。90年代後半に購入したのがプラダスポーツの靴で、ヒールに赤の目印があり、よく履いた。アメリカの老舗シューズブランド、コール・ハーンもナイキ傘下だった頃に、何度かナイキが開発したソールを使ったモデルをリリースして、これも購入した記憶がある。それらと似ているが、ソールのボリューム感が明らかに違って見える。どうにもこうにも気になったので、会場で試着してみた。テクノロジーは進化するものだ。クッション性があり、履き心地は快適だ。これまで履いてきたハイブリッドモデルの革靴とは履き心地がまったく違う。これならばスニーカーと同じ感覚で朝から晩まで履くことができるだろう。
カラハンは1968年にスペインのワイン名産地リオハで創業したヘルガー社が、87年にスタートしたシューズブランドだ。足の動きを人間工学に基づいて研究し、長距離歩行のための技術「アダプタクション・テクノロジー」が組み込まれたアウトソールをイタリアのエクストラライト社と共同で開発した。このソールは歩行時に足裏の幅が5〜8mm広がることで靴との摩擦を最小限に減らし、それぞれの足の幅に合うような構造をもっていると聞く。加えてソールにかかる衝撃を吸収してエネルギーに変えてくれ、膝に掛かる負担を緩和し、スムーズな歩行をサポートしてくれるという。スニーカーに近い快適さはこのアウトソールによるところが大きいのだろうが、空洞がある「マレソール」と呼ばれるソールのデザインは見た目もインパクトがあり、ビジュアルで快適性やクッション性を演出することに成功していると思う。そもそもヘルガー社は手作業で縫製した高品質のハンティングブーツで成功した会社で、この靴も熟練の職人のよって、1足ずつていねいにスペイン国内で生産されている。職人と最新テクノロジーが融合した、まさしくハイブリッドシューズではないだろうか。
今年の2月、東京南青山の骨董通りに同ブランド初の路面店「カラハン東京」がオープンした。トラッドなモデル以外にも、スニーカーやサンダルタイプまで並び、これまで日本では扱いが少なかったレディスモデルまで揃っている。いかにも履きやすいデザインなので案外女性にウケるかもしれない。
悩んだ末に私が選んだのはプレーントゥのモデル。半年前の展示会で試着させてもらったのは、ローファータイプだったが、履き比べると、プレーントゥは紐履ということもあって、調整が容易で、ホールド感が増しているような気がした。それにプレーントゥは革靴ではいちばん好きなデザイン。アッパーはシンプルだが、ボリュームあるトゥとソールで、カジュアルからモードなスタイルまで活用できるだろう。最近気に入っているナイロン系の素材を使ったジャケット&パンツのセットアップにも合うかもしれない。ともあれ“足に順応する靴”“未体験の履き心地”などを謳う私のカラハン体験は、このプレーントゥからスタートすることにした。
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