
山口大学の時間学研究所客員教授を務める織田一朗さんは、時計の発展の歴史や時計の仕組みの専門家です。まさに今回の質問に対してどんぴしゃの回答を得られるはず。さっそく、お話を聞いてみました。
そもそも時間の概念というのは、20世紀に至るまでずっと、地球の自転をベースに考えられてきました。地球が1日24時間で1回規則正しく回転するとの考えに基づいて時間、分、秒という単位が設定されてきました。こうして設定された1秒は「天文秒」と呼べます。
しかし正確な時計が開発されたことで、絶対的に正確と思われていた地球の自転にずれが生じることが分かってきました。そこで1970年代に入り、1秒の単位を地球の自転ではなく、原子の振動数に置き換えたのです。いわば物差しが変わったということですね。これによって誤差がはるかに小さくなりました。たとえばセシウム原子というのは1秒間に約92億回震動します。この原子の震動をもとにして秒が設定し直され、これを使った時計は30~2000万年に1秒以内の誤差に収まるようになりました。日常生活を送る上では完全に無視できる誤差ですね。
ちなみに時計の最先端は原子をぼうだいな数集めてその振動数の平均を取る「光格子時計」という時計で、こちらになるとずれは300億年に1秒しか生じません。このような時計が登場してきたのはここ最近のことで、それまでは地球の自転が、人間が時を知る最も大きな手がかりでした。
そもそも5000~6000年前に人類が初めて作ったとされる時計も日時計だったわけです。人類はたとえば木の影がだんだん動いていくのを見て「時間」を見つけたのでしょう。太陽の動き(つまりは地球の自転ですが)という自然の中にあるリズムを発見するところから、人間と時間とのつきあいが始まりました。
ただ、日時計は時刻を知る上で少なくともふたつの難点がありました。ひとつは設置場所が固定されて動かせないこと、もうひとつは夜の間や雨が降る間など太陽が出ていないと使えないことです。このため、日時計からさらに水時計や火時計といった時計が開発されました。それぞれ水が落ちる時間が一定であること、火が燃えていく時間が一定であることを利用したものですが、これらも自然の中にあるリズムを読み取るという方法は同じです。
画期的だったのは、西暦1200~1300年頃の機械式時計の発明。自然の力に頼ることなく人間が自分たちの力で時計を動かし、時を知ろうとしたのです。最も初期のものは、石とか鉄のかたまりをひもでつるして塔の上から落とし、そのエネルギーを木の棒が左右に回転するリズムで制御し、機械を動かすものでした。そのうち振り子を使った振り子時計が登場し、さらに持ち歩きできる大きさにするためにぜんまいで動く腕時計が登場する…というのが、時計の歴史になっています。
ではなぜ、そこまでして人類は時を知ろうとしたのでしょうか。時間が分かれば、たとえば決まった時刻に人が集まることでものの交換を行う「市場」を開くことができます。機械式時計ができた当初のヨーロッパでは、時計塔には鐘がついており、街の住人たちはいま何時かを知ることができました。これによって中性ヨーロッパでは共同生活をいとなむいしずえができたのです。
時計の発展とともに、街にひとつだった時計は、一家に一台、そしてひとりひとりに普及し、時間に対する意識も変わっていきました。こうして時間を管理する主体が個人になり、街の時計や一家の時計ではなく個人それぞれの時計が生活をいとなむ基盤になると、家の時計にしばられる必要もなくなります。自分の手元に腕時計があっていつでも時間が分かれば、自由に生活ができます。
時間意識の変化とともに、技術の進化で時計そのもののずれがどんどんなくなり、正確に時を刻めるようになってきます。1960年代末に機械式時計よりもっと正確なクオーツ時計が登場。それまでは一般の人が持っている腕時計は1日に15~20秒ずれていました。集合時間は各人の時計に5~10分誤差があることを見越して設定していましたし、バスに乗る時も、自分の時計が数分遅れている可能性を考えて10分早く家を出るようにしていたものです。
しかしクオーツ時計の登場によって、時計は1日に1秒もずれないようになりました。これだけ正確な時計ができたことで、たとえば新幹線のような高速鉄道が過密なダイヤを組めるようになりました。もしもそれぞれの駅員や運転士が2~3分ずれた時計を使っていたら、1時間に10本以上の高速列車を走らせることなどこわくてできません。いわば文明は、時計の発達にともなって高度化してきた、と言ってもいいでしょう。
新幹線だけではありません。たとえば日本標準時と世界の標準時が2、3分ずれていたら、衛星放送で同時中継なんてできません。コンピューターでライブチケットの申しこみを行うものは今はめずらしくありませんが、これが2、3秒ずれていたらクレームの嵐でしょう。文明が発達すると、時間に対する精度の要求が高まると言うことができます。
ではこれから時計の未来はどうなっていくのでしょうか。それは、みなさんが時計に対して何を望むかということで決まると思います。たとえば1980年代までは、時計に望む価値の最大のものは、精度でした。しかしすでに1年に1秒しかずれないクオーツ時計の登場によって、精度に対する要求はさほど強くなくなっています。
現在ではたとえばスマートウォッチのように、時刻表示のみではなく様々な機能を併せ持った「時計」が登場し、今後もその方向で発展するかもしれません。時計の機能は全体の一部になってしまう、そのとき、その機器が「時計」という言葉で呼ばれるかどうかは、ちょっと分かりませんが。
ほかの人の回答は…
◇ 国立天文台・縣秀彦准教授の回答「昼と夜があることが今の時計につながった」
◇ 海技大学校・大坂篤志准教授の回答「太陽や星を利用すれば時計がなくても時間が分かる」
◇ セイコーウオッチ・平賀聡さんの回答「組立師の調整によって正確な時を刻んでいる」
【俺はググらない】時計はなんで時間が分かるの 時間学研究所・織田一朗客員教授の回答「時を知ることで文明は発展してきた」 - 読売新聞
Read More
Bagikan Berita Ini
0 Response to "【俺はググらない】時計はなんで時間が分かるの 時間学研究所・織田一朗客員教授の回答「時を知ることで文明は発展してきた」 - 読売新聞"
Post a Comment