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「自分時間」を生きる日本人、「食」から見える家族や家庭の変化…「共有」の喜び不変 - 読売新聞

 新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛のため、家族で食卓を囲む時間が増えたといわれる。制約を受ける暮らしが続く一方で、家族の絆を見直すきっかけにもなったのだろうか。
 大正大学の岩村暢子客員教授は、食卓を通じて家族の変化を分析する研究を20年以上続けている。アンケートの後、食卓の写真を撮影して日記をつけてもらい、インタビューも行う。他に例のない調査だ。これまでに、約500世帯を対象に、1万件近い日記、2万枚近い写真を収集した。
 詳しく聞き取り調査をすることで、通説とは違った側面も見えてきた。1960年を境に日本の家族は大きく変わり、その流れは今も加速している。それはコロナ禍の影響をしのぐ勢いという。(編集委員 伊藤剛寛)

 ここ数年「つくおき(作り置き)」料理がブームです。あらかじめ調理しておき、後で食べる。コロナ禍で外食が減り、ますます増えていることでしょう。私は、今の家族関係を象徴する料理だと考えています。

 「つくおき」はよく、忙しい親による食事作りの簡便化と説明されます。違うのでは? 作り手は都合のいい時間に作り、家族も好きな時間に食べるという側面が重要です。家族がそれぞれ、自分の時間を重視している表れです。

 ですから、「つくおき」は、必ずしも簡単な手料理ではない。保存が利いたり、再加熱が可能だったりする必要があるので、マリネとか、野菜の煮物とか、肉のシチューとか、深夜や休日に時間をかけて作ったりしています。夫や子供は家でゲームをしているのに、気分次第で後から食べることも。「自分時間」を生きるようになった家族の中で、手作りを維持しようとしたぎりぎりの姿にも見えます。

 食卓調査を始めたのは1998年。現代家族のあり方を明らかにするのが目的です。同じ家庭に対し、1週間分の全食卓について、メニューを決めた理由、食べた時刻、誰と食べたかなど詳しい日記をつけ、写真を撮影してもらいます。さらに、個別の詳しいインタビューを行います。これとは別に、同じ家庭を10年おきに追跡したデータがそろってきたので、分析を続けているところです。

 研究から見えてきたのは、日本人にとって、家族や家庭の持つ価値や重要性が小さくなってきたということです。代わりに「個」が濃厚に立ち上がっている。コロナ禍で家庭回帰が指摘されますが、大きな潮流は変わらない。外出自粛生活では、家族の良さとともに、長く一緒にいる窮屈さ、不自由さを感じた人も多いでしょう。

 社会的に大きな出来事があると、人はこう変わるに違いないと思いがちです。2001年にBSE(牛海綿状脳症)が問題になった際は、牛肉が控えられるようになると言われました。08年に発覚した冷凍ギョーザによる薬物中毒事件では、手作り志向が高まるとされました。実際には、そうなりませんでした。

 日常の家庭の食事は、すでに個人のものです。食卓写真を見ると、食事がそれぞれ違っていたり、テーブルで座る位置が決まっていなかったりする家庭も増えた。好きなものを好きな時間に食べるからです。数年前、レトルトカレーの市場規模がルーを上回ったことが話題になりました。単身世帯の増加が要因と言われましたが、家族それぞれに好きなレトルトカレーを出している写真もよく見ます。

 家族の食事は、なぜバラバラになったのか。インタビューで聞く限り、その大きな理由として見えてくるのは個の尊重。そして、女性の社会進出でも子供の塾でもなく、部活と交代制勤務です。

 「中学に入ったらご飯は一緒に食べられませんね」と親は口々に言います。朝、放課後、土日と練習が続く。高校に入ると塾、大学に入ると夜は遊んだり、アルバイトをしたり。中学以降はずっと食卓を囲むのが難しくなります。

 サービス業などで、交代制勤務に就く人も増えています。パートで働く主婦も多い。残業で食事に間に合わないのではなく、そもそも食卓を囲めないサイクルの生活を送っているのです。

 加えて、最近は栄養学や医学の知見が、同じものを同じ時間に食べることを否定する方向にあります。健康や運動能力の向上のためには、個人に合わせた食が必要という考え方です。

 日本の家族や食卓の転換点として、私は1960年に着目しています。戦後の教育を受けた両親を持つ人が60年以降増えます。また、この年は、ラーメンやコーヒーなどの即席食品が流行する「インスタント食品元年」です。

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