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家事代行サービスで「密室の性被害」どう防ぐ…AV見始め全裸になる顧客も - Business Insider Japan

家事代行女性

マッチング型家事代行という、リーズナブルで便利なサービスで起きていた性被害。防止のために何ができるだろうか(写真はイメージです)。

Getty images/Maskot

マッチング型家事代行業者のCaSyで、一般家庭を訪問して家事代行を行う働き手が、利用者による性的ハラスメントに遭ったという被害が起きていたことが、明らかになった。

マッチング型ベビーシッター、キッズラインのシッターによる子どもへのわいせつ事件の記憶も新しいが、今回は働き手が被害者という立場だ。

マッチング型プラットフォームでさまざまなサービスが便利に使え、働く選択肢も増える反面、リスクが浮き彫りになりつつある。運営会社、そして利用する私達はどのようなことに気を付けるべきだろうか。

AVを見始め……全裸で

2020年9月15日午後2時半、30代女性のNさんは、CaSyの「キャスト」として、ある男性の一人暮らし宅を訪問した。キャストとは実際に、顧客の自宅を訪ねて、家事代行を行うスタッフのことだ。

CaSyでは利用者が掃除等の依頼を希望すると、CaSyがマッチングをし、業務委託契約を結んでいるキャストに対してその仕事を受けるかどうかを確認。了解を得られればキャストを派遣するという仕組みになっている。

Nさんはそれまで派遣業者、個人請負、CtoCプラットフォーム……と、さまざまな形で10年以上にわたり家事代行をしてきた。CaSyでもこれまで数十件の仕事を受け、9割近くで満点の星5の評価を得てきた。

この日の利用者は、CaSyでの利用が初めてだった。

到着すると事前に知らされていた間取りとは異なり、ワンルームで、部屋の中は「下手したら数年掃除をしていないのではという状態」(Nさん)。

CaSyは、あらかじめ準備してもらいたい掃除道具などを利用者に提示しているが、あったのはハンディの先が細い掃除機のみ。食器も洗えないのでスポンジと洗剤だけでもとお願いし買ってきてもらった。

テレビを見る男性暗いイメージ

利用者男性は6畳ほどのワンルームでアダルトビデオを鑑賞し始めたという(写真はイメージです)。

shutterstock/beeboys

その後、Nさんが驚いたことに利用者男性は、6畳ほどのワンルームで脱衣場もない中、服を脱ぎ、入浴をし始めた。

その時点で少し怖くなったが、背を向けてもくもくと掃除を続けると、男性は裸で腰に手ぬぐい1枚を巻いた状態で浴室から出てきて、アダルトビデオを鑑賞し始めた。

この時に逃げ出していればよかったのかもしれない。しかし、どうしていいか分からず、Nさんは背を向けて洗濯物を畳み続けた。

気が付くと、男性は近づいて話しかけてきた。振り向くと手ぬぐいはなくなっており、全裸で仁王立ちをする男性がいた。全裸であることに気づかないふりをして会話に応じたが、どんどん近づいてくる。

「掃除機を取ってきてもらえますかなどと言って一度追い払ったのですが……。今度は自慰行為をしながら迫って来たんです。さすがに耐えかねて、『会社に連絡しますね』と言い残して、何とか部屋を抜け出しました」

訪問から1時間半程度経過した、午後4時頃だった。本来はもう30分ほど仕事をする予定だったが、CaSyの緊急電話につなぐと「そのまま家に帰って大丈夫です」と言われた。

働けなくなり、心療内科に

CaSyに電話後、自己判断で110番し、事情を話すと、パトカーで警察署へ向かうことになった。警察では調書を取るなどで3時間程度もかかった。

「客がしたことは自宅なので公然わいせつ罪にはあたらないが、威力業務妨害で事件化すると警察では言われました。ただ……帰宅してから警察から電話が来て、相手に注意をしたので、今回はこれで終わりますと言われたんです。納得いかないと伝えましたが、あなたはただの目撃者ですと言われました……」

数日は自分に起こったことが大したことはないと思おうとしたが、3〜4日経つと思い出してしまい、他の人の家に上がることが恐ろしくなった。

10年以上続けてきた家事代行がほとんどできなくなり、2カ月以上たった今も、心療内科で薬を処方してもらって心を落ち着かせている。

「AV見ていても気にならない人もいますからね」

Nさんによれば、事件後、運営会社としてのCaSyの対応はあいまいだった。

「事件直後に電話がつながったものの、その後はなかなかつながらず、こちらもかけなおしに出られなかったりして……ようやく出たときに運営会社に『どのタイミングで抜け出せば良かったのか? AVをみた時点ですか?』と聞いたら『(利用者が)AV見てても気にならないという人もいますからね、人それぞれかと思います』という回答でした」

Nさんは「以前、別の家事代行会社で働いていたこともありますが、何かあった時もすぐに会社と連絡がとれ対応してくれたので、今思えばとてもしっかりしてました」と話す。

「業者による対応の違いのリスクを痛感しました。私以外にも、今までも似たような事例があったかもしれないし、これからも被害に遭う方がいるかもしれない。リスクは広く知られるべきだと思いました」

運営会社の責任めぐるCaSy社長の回答は

CaSy

CaSyの加茂雄一社長。働き手であるキャストと、雇用関係はないビジネスモデルではあるが「キャストに対して安心を提供する責任はあると思っています」と、話した。

撮影:滝川麻衣子

CaSyは「犯罪的行為に結びつく行為」や「公序良俗に反する行為」を禁止行為とし、こうした行為を行った場合は、事前の告知なく、会員資格の抹消等ができると利用規約に定めている。

今回この規約に基づき、当該利用客にはメールで退会を通告し、会員資格を抹消したというという。

ただしマッチング型は、運営会社がキャスト(働き手)を雇用しているわけではなく、フリーランスとして業務委託契約を結んでいる。

雇用関係にないため現状の仕組みでは、業務の上で起きた被害について、運営会社が補償をしたり、労災保険が使えたりすることは基本的にはない。

そうした状況下で、そもそもこのような事案が起こるリスクや運営会社としての責任を、どのように捉えているのか。

11月30日、CaSyの加茂雄一社長が筆者の取材に答えた。

「我々はCtoBtoCのビジネスモデルで、お客様に対してはCaSyがサービス責任を負っています。キャストとお客様を我々がまずはマッチングするのですが、最終的にはキャストがお客様や仕事を選ぶということを基本的なコンセプトにしています。この点についても、キャストに対して安心を提供する責任はあると思っています」

CaSyとしては、創業時からキャスト側が性的被害に遭う可能性を重大なリスクとして認識して対応してきたという。

クレジットカード決済にしていることで、審査を通った利用者しか使えないようにする、キャストの電話番号を伝えずともやりとりができる仕組み、本人に見られない評価や日報に運営会社が返信できる仕組みなど、事前予防策を取り入れてきた。

しかし、Nさんの事例に限らず、これまでも類似のことは起きていたという。

「警察が絡むような事案ではないものの、家族構成が事前情報と違っていたという報告や、お伺いしたときにアダルトビデオを見ているというようなケースなど、キャストから恐い思いをしたという声は、今までも継続的に発生しており、我々としても責任を感じる程度の件数がありました」(加茂社長)

今回の件を重く受け止めたといい、CaSyでは、事案発覚後の9月22日に全キャストに、事案の詳細は伝えずに「安全面・衛生面の問題がある場合、サービスの提供が難しいことをお伝えし、退室ください」という趣旨の文面を送っている。

利用者の本人確認、犯罪履歴のチェック導入へ

スマホ女性イメージ

ハラスメントや犯罪を防ぐべく、「Casy利用者の身分証などによる本人確認システムの導入を急ぐ」と加茂社長は語る(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

Nさんが筆者へ訴えた内容に対しても、加茂社長は、全面的に認めている。

その上で、電話は回線が混雑していてつながらなかった可能性があること、このような場合にどの時点でサービスを終了してもいいかを具体的に定めていなかったことについて、こう述べた。

「電話については今回のような重大な事案については別の回線を設ける等の対策を取りたい。どのような事案が発生したら退室するという基準も、会社としても具体的に定めておらず、反省すべき点があったと考えています」(加茂社長)

また、これまでCaSyは利用者の身分証などによる本人確認をしていなかった。加茂社長はこれまでも議論に上がっていたと述べた上で、次のように話す。

「今期、安全の取り組みをしようという中で今年5月ごろから株主や証券会社と話をする中で、検討を始めたところでした。キッズラインの件があったので早めにしなければということもあり、本人確認専用ソフトウェアサービスの会社と連携して本人確認と、犯罪歴チェックをできる仕組みの開発着手をしており、2021年2月をめどに導入予定です

CaSyはキャスト1万人、利用者11万人が登録する巨大プラットフォームだ。裾野が広がっていくにしたがって、サービス利用者側、提供者側のいずれにも、さまざまな人が参入してくる。

働き手側に対しては審査や研修ができても、利用者側からのハラスメントや犯罪はプラットフォーム側ができることはより限られる。

それで犯罪が100%防げるわけではないが、少なくとも利用者側の本人確認については多くのプラットフォームが義務付けている中で、CaSyの対応は遅すぎなかったか。

CaSyの加茂社長は「今回の件を受け、キャスト側にもダイレクトに十分説明できていたかというと不十分だった点もあったと思う」と話す。

今回の事案についてもNさんは、他のキャストへの注意喚起のために公表を望んできたが、これまでCaSyは具体的に事件があったことやその内容は発信してこなかった。

しかし、Nさんが筆者に告発し記事になることを受けて、12月3日、キャストに社長自らが登場する動画と文面にて、事件があったこととキャストへの注意喚起を行った。

CtoCサービスのリスク回避どこまでできるか

マッチング型の参入により、便利なことが増える反面、働く側も含む利用者の安全を確保することは世界的にも課題になっている。とりわけ対面サービスで、密室で行われるサービスには細心の配慮が必要になるが、運営会社、そして利用する私達は何ができるだろうか。

1. 運営サイドの注意喚起

家事する人

CtoCサービスを手掛ける会社にとって、リスクと諸問題への対処方法の説明は必須となってくる(写真はイメージです)。

shutterstock/buritora

運営側がまずすべきことは注意喚起だ。

家事代行が個人事業主であり、プラットフォームが法的責任を負わないこと等について説明会等で説明はしていても、それに伴ってどのようなリスクがあり、どのような事象に対してどのように対応すればいいかはほとんど知られていない。

また、CtoC家事代行の中には、働き手の顔写真等の個人情報が多数掲載されて、来てほしい相手に連絡ができるようになっているプラットフォームもある。

CaSyに限らず、他のプラットフォームも、働き手の保護施策や緊急窓口の重要性について認識してほしい。

2. データの収集・共有とテクノロジー活用

grab

シンガポール発の配車サービスGrabは、約300人を安全対策の技術担当に充て、データ活用による利用者の現状把握をしている。

Reuters/Lim Huey Teng

各国でさまざまな領域でマッチングサービスが広がる中で、テクノロジーの活用も取りざたされている。

シンガポール発の配車サービスGrabは、300人を安全対策の技術担当に充てている。毎日運転手の本人確認をセルフィ—で実施する他、行き先と異なる方向に向かったりスピードを出しすぎたりしていないかを、データで把握。

異常が確認された場合には利用者にアプリから安否確認が届くなどの対策をしている。

日本でも、ベビーシッターについてはキッズライン事件を受けて、内閣府がカメラ等の導入を推奨しはじめた。家事代行でも、例えば作業中録音を可能にし、運営会社に転送される仕組みがあれば何かあったときの証拠になる

こうした対策については利用者側の了承が必須で、お互いの安全のための合意の着地点を探っていく必要があるだろう。

また、1つのプラットフォームで犯罪が行なわれても、その人物を退会させるだけでは、他のプラットフォームに登録して同じことを繰り返す可能性がある。ベビーシッターによる性犯罪については国を挙げデータベース化して共有するという議論も始まったが、業界からはブラックリスト情報を共有したいという声も出ている。

3. メリットとリスク踏まえた働き手の自衛

今回の事件の被害者Nさんは、直接雇用や業務委託で派遣型の家事代行会社で働いていたこともある。

派遣型ではマッチング型に比べて利用者が払う価格は高いが、担当社員が初回は同席するなど、社員の関与が大きい。派遣型はその分の人件費が料金に含まれる設定となるため、働き手としての実入りはマッチング型の方が高いという隙間時間で好きな仕事を選べるというメリットもある

しかし、マッチング型での働き方は、労働者としての保護がされない。現状では複数の収入源を確保する、保険に個人で加入するなどの自己防衛も有効だろう。またプラットフォームやエージェントを選ぶ上で、個人情報の出し方や社員側の対応などを知って良質な業者を選ぶことも必要かもしれない

UberEatsの働き手などでは日本でもユニオンを作るなどして対処する動きもあり、労災や事故事件に遭った場合の収入補償などがどう判断されていくのか。今後が注目される。

過渡期にある日本のシェアリングエコノミーで、どのように犯罪を防いでいくのか。

これまで「不安を煽るから」とあまり議論されてこなかった側面があるが、目をそらし続けるわけにはいかない。業界を挙げて、正面から議論する必要があるのではないか。

(文・中野円佳

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December 04, 2020 at 04:30AM
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