アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。オンライン注文の物流に特化した「ダークストア」が増えている。棚に商品が陳列されているが、客は入ることはできず、EC(ネット通販)で受注された商品を出荷するための施設だ。スーパーマーケットが閉鎖された跡地に食品のダークストアが作られることが多かったが、一部ファッション分野にも広がりを見せている。
百貨店のメイシーズ(MACY'S)がダークストアの実験を始めている。デラウェア州とコロラド州の2店舗で10月から開始した。名称はオムニサービスセンター。EC(ネット通販)の商品ピックアップと返品のみ可能で、その他の一般的なサービスを提供するカウンターはあるが、店内で買い物はできない。
目的は急増しているECに対応するためで、ECで注文した商品をこの店からお客に配送するか(またはピックアップに来てもらうか)、他の近隣店舗に送る。同社広報がメディアの取材にそのように答えているが、今のところ情報はここまでだ。不採算店舗を転換したのか、家賃はどうなのかなど疑問は尽きないが、そういったテクニカルな疑問の答えを得るにはいましばらく時間が必要だろう。
同社はもう一つ10月初頭にドアダッシュ(DOOR DASH)との提携を発表している。ドアダッシュはオンデマンド型の短時間宅配大手。もともと外食業界からスタートした企業だ。小売業界にも徐々に版図を広げはじめているのだが、百貨店との取引開始は私にとっては少々サプライズだった。外食宅配企業が百貨店と組むことと、百貨店がついに短時間宅配を始めることの2つの驚きである。
料理、チルド、冷食など食品には短時間にお客に届けなければならない商品特性がある。だからそこからビジネスが生まれて市場が大きくなったわけで、これがとうとうファッション業界にも波及し始めたのである。ECで買った服を手数料を払ってまで2時間以内に手にしたい人がいるのかどうかを考えて悩むのではなくて、お客の選択肢を増やすことが正しいということなのだろう。
コロナの店舗休業で明暗が分かれる
ご存知の通りアメリカの小売業界はコロナによる営業規制でリアル店舗に影響が大きく出る一方、ECの売り上げが急騰する地殻変動のような変化が生じている。ECはピークの5月には前年同月比で80%弱という伸び率を記録した。今も50%前後の増収で推移しているようで、まさにECシフトである。
この大変化に対する小売業界の対応は、フルフィルメントセンターを急ごしらえで建設することなど不可能なので、店舗を有効活用するしか手がない。そして店舗を最大限に有効活できた企業とできなかった企業とで明暗が分かれた。その差は今まで準備していたかどうか。つまりデジタルにしっかり投資し変革に取り組んできたか否かで勝負が決まった。
例えばルルレモン(LULU LEMON)がECによるインストアピックアップの実験をしたときに注文の半分以上が店頭欠品していることに気づき、在庫管理の精度を上げるために全商品にRFIDタグ(無線電子タグ)を付ける取り組みを始めたのは2015年のことである。そのためコロナによる営業規制がかかった直後からダークストア化が可能になって被害を最小限に食い止めている。一方のメイシーズはそういった準備ができていなかったので大きな減収に見舞われている。
ダークストアはデジタル小売業への実験場
EC急増に対する店舗の対応は、おおよそ5つに集約されてきたと考えている。
(1)店内フルフィルメントスペースの設置:
ネット注文に対する作業スペースは必須で、今は急ごしらえが多いがこれからは店舗計画の線引きの段階でスペースを確保することになるだろう
(2)BOPIS(バイオンライン・ピックアップインストア):
アメリカには店内ピックアップと、駐車場に止めた車で受け取るカーブサイドピックアップと2つある
(3)オンデマンド型短時間宅配:
インスタカートやドアダッシュといった専門企業を利用しての短時間宅配
(4)マイクロ・フルフィルメントセンター:
売り場を大幅に縮小し、オートメーション化された小型のFCを店内に作る手法。ウォルマート(WALMART)、スーパーマーケットのアルバートソンズ(ALBERTSONS)やHEBが実験を始めている
(5)ダークストア:
ダークストアは既存店を転換する試みでメイシーズに加えて、ウォルマート傘下のサムズクラブ(SAM’S CLUB)、スーパーマーケットのクローガー(KROGER)やレイリーズ(RALEY’S)など複数の企業が実験している。ゼロから作ったのがアマゾン傘下のホールフーズ(WHOLE FOODS )でNY近郊に1店舗、短時間宅配もドアダッシュがコンビニダークストアの実験を始めている。
クローガーは3月から実験しているのだが、CFO(最高財務責任者)がメディアの取材に対して、「ダークストアはラーニングラボだ、そこから得た知見を適用することでネット注文を店頭で処理するコストが削減できた」と答えており、ECシフトへの対応だけではなくプロセス効率化の実験場としても機能しているようだ。
モールから抜けた核店舗のあとをダークストア化、つまりフルフィルメントセンター化するというアイディアはかなり前から存在する。専門店が抜けた後を小さなフルフィルメントスペースとして他の複数の専門店に貸すという計画を聞いたこともある。ただ、お客が普通に行き来するモールの中にダークストアがあるという環境がお客のイメージにどう作用するのか、高い家賃を払ってROI(費用対効果)はどうなのか等々の課題もあって、業界では賛否が分かれている。
メイシーズの実験はこういった諸々の疑問に答えてくれるかもしれない。やらないでゼロのままでいるよりも、とりあえずやってたとえ失敗したとしても少なくともノウハウを得ることができると考える方が重要なのだと私は考えている。
鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー
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