宇宙探査機「ヴォイジャー2号」が土星の北極付近に奇妙な六角形の雲を発見して以来、この現象は長年の謎となってきた。これがいかなる要因が重なって起きている現象なのかを探るため、これまでコンピューターモデリングや、液体の入ったタンクを回転させるといった物理的なモデリングなどが試されてきた。
仮説の多くが軸としていたのは、「ロスビー波」と呼ばれる現象だ。ロスビー波は大気中や海洋中に存在する大規模な波で、地球のジェット気流を蛇行させることでも知られている。これまで研究者らはさまざまな実験によって、土星の北極に近いとされる条件下において、ロスビー波の流れによって安定した六角形を“再現”してきた。
ところが、ハーヴァード大学のラケシュ・ヤダフとジェレミー・ブロクサムは、そうした研究が少々“浅い”と感じていた。非難しているわけではない。文字通り「浅い」のだ。
より「深い」シミュレーションを
地球の大気モデルの計測方法を決めることは、さほど難しくはない。大気層の最低部が地表であることが明白だからだ。しかし土星の場合、最も外側の外気圏をどのくらいの厚さと仮定して大気モデルをつくるべきか、多少の議論の余地がある。
ヤダフとブロクサムは、下からくる対流が土星の外気圏にどのような影響を及ぼしているのか探るため、シミュレーションをもっと「深く」まで拡張したいと考えた。
彼らの大気モデルは、土星の半径の最も外側10パーセントにわたる層を擬似的につくり出している。ただ、このプログラムの実行にはかなりの計算負荷がかかることから、ヤダフとブロクサムはシミュレーションをたくさんいじることは出来なかった。
また、土星の大気の最上層以外のデータは限られており、完璧な答えを見つけるためにはほかにも考慮すべき物理的特性がたくさんある。さしあたってこの研究は、「概念実証」として、ひとつのモデル構成の可能性を示すものだ。
多角形ができる理由
とはいえ全体的な大気循環のパターンは、かなり現実的なものに思える。
下記のモデルでは、強力なジェット気流を含む東向きと西向きの風の帯が交互に流れ、それらが適切な位置に示されている。ジェット気流の間にはいくつもの渦が形成されており、北極に近いほどその数は増す。
これは赤道付近では指輪のようなかたちになっている帯が、北極へ近づくにつれ平たいディスク状に変形する際に起きる現象と考えられる。これらの渦が風の帯を押し曲げるため、帯はより角張った多角形になるのだ。
このモデルで興味深い点は、北極付近の渦の動きである。大気の上層付近におけるガスの密度が低いゆえに、対流を伴う垂直方向の大気循環に奇妙な特徴が現れる。上向きの勢いが一定であるにもかかわらず、ガス密度が低下することで渦の回転が加速するのだ。
これにより、渦の上部で乱流が起き、渦構造の一貫性が失われる。つまり、わたしたちが目にする土星の最上部では、この乱気流が渦を覆い隠しているのだ。
残るいくつかの疑問
このモデルから、極域のジェット気流の周りに複数の渦が持続的に存在しており、それらの渦に押されるかたちでジェット気流が多角形に変形していることが見てとれる。このシミュレーション結果は、実際の土星の六角形が、少なくとも人類が観測してきた期間は正六角形に保たれてきた理由を解明する手がかりになるかもしれない。
とはいえ、このモデルは完璧とは言えない。シミュレーションで生成された北極のジェット気流は、六角形というより三角形に近かった、というのが理由のひとつだ。また、この形状をつくる気流の西向き回転も、実際に土星で観測された速度より速かった。
さらに、今回この大気モデルは土星の南半球に北半球とは異なる気流循環のパターンを生成しているが、このシミュレーションがどれだけ現実に近いかということに関しては、ほとんど触れられていない。土星の南半球については、これまであまり詳しく研究されていないが、北極で見られるような六角形は存在しないことがわかっている。
ヤダフとブロクサムは、この「概念実証」に基づいてモデルのさまざまな構成をさらに時間をかけてテストすれば、より正確な状況を把握できるようになるだろうと話す。しかし、彼らが強調したいのは、この土星の北極にある巨大嵐の謎を究明するにあたり、彼らのプロセス自体は間違っていないであろう、ということなのである。
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July 02, 2020 at 04:00PM
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