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学校閉鎖が解除されたあと、子どもたちに残る「長期的な影響」の深刻度|WIRED.jp - WIRED.jp

新型コロナウイルスのパンデミックによって、学校閉鎖が世界的に続いている。こうした状況が、子ども教育や精神的健康に深刻な影響を長期的に与える可能性が指摘されている。参考になるのが、過去に発生したハリケーンや地震といった大規模災害だ。

WIRED(UK)

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RUHEY/GETTY IMAGES

ハリケーン「カトリーナ」は2005年にメキシコ湾岸を直撃し、1,800人以上の命を奪った。そしてハリケーンの通過後、推定37万2,000人の子どもが転居を余儀なくされた。しかも100校以上の公立学校が破壊され、無事だった学校も数週間ほど閉鎖されたのだ。

洪水が引いたあと、転居した生徒たちは最終的に新しい学校に通うようになった。しかし、災害による影響は長く続いた。

一部の子どもにはハリケーン直撃からずっとあとになって、不安障害やうつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の兆候が多く現れるようになった。5年後の調査によると、ハリケーン後に転居した子どもの3分の1以上が、同学年の生徒より少なくとも1年分ほど学業が遅れたままだったという。

表面的には、ハリケーンと新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)には、ほとんど類似点がない。だが、世界中の13億人を超える子どもたちが学校閉鎖で家庭学習を余儀なくされているいま、自然災害は世界中の研究者や親たちが抱える疑問に対する有益な情報を研究者に提供できる。新型コロナウイルスによる学校閉鎖は、子どもたちに長期的な影響を与えるのか?という疑問についての洞察である。

災害が子どもにもたらす影響

初期の兆候は、あまり楽観できるものではない。ハリケーンや地震、感染症のアウトブレイク(集団感染)の後遺症に関する研究では、災害が子どもの教育や精神的健康に深刻な影響を与える可能性が指摘されている。

「回復の過程は災害の特性によって異なりますが、人間への影響は多くの場合、かなり一貫性があることがわかっています」と、メルボルン大学で子どもの健康とウェルビーイングに関するプログラムのディレクターを務めるリサ・ギブズは語る。

ギブズは、2009年にオーストラリアで起きた通称「ブラックサタデー」と呼ばれる山火事の生存者に関する調査を実施している。この調査によると、影響を受けた地域の子どもたちは、山火事のあと数年にわたって国語と数学のテストで同学年の子どもより成績が悪いことが明らかになった。

「重大なトラウマや喪失、継続的なコミュニティの混乱を伴う出来事があると、学習への影響が長期化します」とギブズは指摘する。「学習能力は次第に元に戻るかもしれませんが、学習の遅れを取り戻せずに将来の進路や進学先が変わってしまい、生涯にわたって影響が及ぶ可能性があります」

「学習への影響は大きい」

研究者にとっての課題のひとつは、学習機会の損失のうちどの程度が学校閉鎖によるもので、どの程度が転居やトラウマなどほかの要素によるものなのかを見極めることだ。学校を頻繁に欠席する子どもは、試験の成績がよくないことは立証されている。このため政策立案者は長年にわたり、「サマースライド」と呼ばれる長期休暇による学習機会の損失を懸念してきた(これに対して研究者は最近、夏休みによる学習衰退効果はおそらく小さいであろうと主張している)。

問題は、長期にわたる学校閉鎖に関するデータがほとんどないことである。災害のあとでも大部分の児童が、たいていは数週間以内に学習を再開している。

最も顕著な例は、2014年のエボラ出血熱の流行による学校閉鎖であろう。西アフリカで500万人の子どもが最大8カ月のあいだ学校に通えなくなったが、その影響に関しては驚くほどデータが少ない。

2019年のある研究では、1980年代および90年代に、教師のストライキによって最大90日のあいだ学校閉鎖になったアルゼンチンの生徒たちについて調査している。ストライキによる影響をあまり受けなかった地域の生徒と比べて、学校閉鎖の影響を受けた生徒は学位取得率が低く、失業率が高く、平均所得が2〜3パーセント低かったという。

「残念ながら、これは明白な事実を確認する実証研究の範疇に入ります」と、ロンドン大学教育研究所でリサーチフェローを務めるサム・シムズは言う。「学校に行かなければ、あまり学習することができません。学校が長期にわたって閉鎖されるほど、学習への影響は大きくなります」

私立校と公立校に格差

パンデミックの間、多くの学校は何らかのかたちで遠隔学習を採用している。教師が「Google Classroom」などのオンラインポータルを通じて資料を提供したり、YouTubeやZoomで授業を開いたりしている。しかし、オンライン学習が学校の直接的な代替物になるかどうかについては、まだ確証が得られていない。

さらに遠隔授業への切り替えは、自然災害において確立されたパターンの強化につながるだろう。つまり、経済的に恵まれていない者がしばしば、最も深刻な影響を受けるということである。

ロックダウンの最中、それぞれの子どもがどのくらい学習しているのか知ることは不可能である。だが、教師の意見を調査するアプリ「Sutton Trust」や「Teacher Tapp」からのデータによると、英国で毎日オンライン授業にアクセスしている私立校の生徒は、公立校の生徒の2倍いる。同様に労働者階級の家庭の生徒は、ロックダウン中に学習に費やす時間が少なく、学習成果物の質も大きく低下している。

「わたしたちが得たデータによると、経済的に最も恵まれていない地域の教師の55パーセントが、生徒は1日あたり1時間以下の教育しか受けていないと感じています」と、Teacher Tappの共同操業者ローラ・マキナニーは指摘する。私立校ではアウトブレイク前にオンライン学習ツールを使用していた可能性が高く、裕福な家庭の生徒は自分のデヴァイス、信頼できるブロードバンド回線、家で勉強する場所をもっている場合が多いのだ。

「私立校の生徒の半分が毎日9時から3時までオンライン授業を受けている一方で、公立校で同じことをしているのは10パーセントをはるかに下回っています。そのくらい大きな差があるのです」と、マキナニーは指摘する。

学校の役割を問う集団実験

この記事の執筆時点では、中国やフランス、ドイツなど一部の国で学校が再開されつつある。英国政府は、再開基準を満たせばいくつかの学年で6月1日から徐々に学校を再開する意向を示している。スコットランドとウェールズを含むほかの多くの国では、まだ学校再開の時期が明らかでない。イタリア、ポルトガルや米国のニューヨーク州、カリフォルニア州は、9月まで学校が閉鎖されたままだ。

学校の再開が安全かどうかは、難しい判断である。新型コロナウイルス感染症の症状を示す子どもは少ないようだが、子どもが家庭におけるウイルス拡散においてどのような役割を果たしているのか、まだ明確な証拠がないからだ。

こうしたなか、学校の再開は社会全体や子どもの教育、そして経済などへのリスクを比較検討したうえで決定する必要がある。学校閉鎖が継続すれば、親が仕事に復帰する上での障害にもなるだろう。

ロックダウンは少なくともある意味では、以前では考えられなかった研究の機会を提供することになる。学校の役割を問う集団実験である。

「最大の問題は、学習機会の損失はわたしたちが考えるほど大きいものであるのかということです。いまはその答えを知ることができませんし、今後しばらくの間はわからないでしょう」と、マキナニーは言う。「そのほかにも、大きな哲学的な問題があります。学校の存在意義はどれだけ子どもの教育のためで、どれだけ大人の経済的生産性を高めるためかということです」

つまり、学習機会の損失が思ったほど悪影響を及ぼさず、実際にはロックダウンによって子どもたちが個別対応や両親との時間などのメリットを得ていたとしたらどうだろうか。

「学校は実際、子どもの教育において実質的な違いを生み出しますが、その違いは小さな割合でしかないことがわかっています」と、マキナニーは言う。「3〜4カ月では、わたしたちが思っているほど学校での教育が大きな違いを生み出さないとしたらどうでしょうか」

悲しみや喪失が子どもに及ぼす影響

パンデミックが教育に与える影響がどのようなものであれ、その影響は少なくとも社会全体で共有される。しかし、この感染症で最も深刻な影響は、一部の人たちに集中することだろう。すでに世界中で少なくとも34万人以上が新型コロナウイルス感染症で亡くなっている。そして、その死者の多くが子どもたちの祖父母や両親、教師や友達であろう。

「悲しみや喪失によってどのように影響を受けるか、それをどのように理解するかは、子どもの発達段階によって異なります」と、ニューオーリンズのルイジアナ州立大学健康科学センターで小児医療、精神医学、公衆衛生の教授を務めるジョイ・オソフスキーは説明する。オソフスキーは、ハリケーン「カトリーナ」や福島第一原発の事故といった災害が子どもたちに与える影響の研究にキャリアの大部分を費やしている。

「カトリーナがもたらした災害のあと、多くの問題が生じました。うつ病、不安障害や心的外傷後ストレス障害の症状などが報告されたのです」と、オソフスキーは説明する。「特に幼児や就学前の児童は行動や感情をうまくコントロールできず、親から離れたがらなくなりました」

子どもの精神的健康に問題が生じていることを示す主な兆候に、退行現象がある。退行現象とは、幼児が赤ん坊のように振る舞うことを指す。

「幼児の場合、おねしょをしたり、一般的なトイレの失敗が起きたりする可能性があります。言語障害のほか、ふさぎ込んだり、言うことを聞かなくなったりするかもしれません。睡眠障害が起きる場合もあります」と、ギブズは指摘する。「子どもによって非常にさまざまです。それでも、これらは異常な状況に対応するためのごく当たり前の反応なのです」

すでに子どもたちに不安障害の兆候も

最も重い負担を負うのは、常に家族を亡くした子どもや、病院や遺体安置所などの最前線で働くことで心的外傷性ストレスを抱える親をもつ場合などである。しかし、数百万人の親が失業している現状では、より微妙なかたちで災害による影響が及ぶ可能性がある。

「収入の変化、雇用の変化、家族関係の破綻など、災害後によく発生するこれらすべてのことが、災害時と同じかそれ以上に子どもの精神的健康にさらなる影響を与えます」と、ギブズは言う。オックスフォード大学の研究者たちによると、すでにパンデミックは子どもたちの間で不安障害を引き起こしている兆候がある。

ギブズが現在研究している分野のひとつは、子どもの回復力に関するものである。「回復力とは基本的に、大きな混乱に適応する能力のことです」とギブズは説明する。

「とはいえ、立ち直る強さがあるかどうかなど、それを個人に当てはめないように十分に注意しなければなりません。実際、それを個人に当てはめるのはあまり意味がないからです。わたしたちは皆、何らかの適応力をもっています。でも、利用できるリソースや、社会的サポートによって回復力は異なります。このため子どもの回復力について考えるときは、子どもたちが困難な状況でも力を発揮できるような環境を、わたしたち大人がどのようにつくればいいのか考えるといいでしょうね」

いま、社会に求められている支援

以前の災害を調査することによってギブズら研究者は、子どもの対応力を助けると考えられる特定の条件を見つけ出した。「子どもが安心感や希望、落ち着きやつながりを感じられるようにしてあげてください」と、ギブズは言う。

子どもたちを手助けする最良の方法のひとつは、回復の過程で子どもたちを力づけてあげることだと、ギブズは語る。例えばカトリーナによる災害のあと、生徒たちはコミュニティガーデンに植物を植えるのを手伝った。

「子どもたちは、自分たちがいま起きていることに対処できるのだと感じる必要があります。そして、自分の家族も現状に立ち向かうことができるのだと感じる必要があるのです」と、ギブズは説明する。「歩道にチョークでメッセージを書いたり、窓に虹の絵を掲げたりして住民を励ますなど、現時点でも素晴らしい例があります。幼児でも自分たちがコミュニティの役に立っていることを知っているのです」

社会は、ロックダウン後の世界の新しい日常に、子どもたちが適応できるよう手助けする必要があるだろう。

福島の原発事故後、日本政府は子どもたちに対する放射線教育の方法を変更した。オーストラリアのコミュニティでは、幼いころから山火事について学ぶ。子どもたちの不安を軽減するために役立つひとつの方法は、学校が子どもの年齢に適した方法で、ウイルスのアウトブレイクのリスクについて教育することだ。手を洗うことや、社会的距離の奨励も有益だろう。

学習機会の損失が起きた場合でも、学習を個別にカスタマイズすることによって影響を軽減できることも証明されている。教育研究者ジョン・ハッティが書いているように、2011年に起きたニュージーランドのクライストチャーチ地震後、実際に子どもたちの試験の成績は向上した。子どもたちが難しいと感じる科目に絞って教師が教えたことが一因である。

これからの新しい生活様式に向けて

ギブズが災害後のプランニングについて政府に進言する際は、通常は5年の復興計画を推奨する。新型コロナウイルスの場合、復興にかかる期間はそれより長くなる可能性がある。パンデミックによって世界が景気後退にに陥れば、特に長期化するだろう。

災害研究からの教訓は、暗たんたるものであるかもしれない。だが、調査結果が伝えるメッセージは、全体として希望がもてるものだとギブズは言う。子どもたちは災害によって深刻な影響を受けることもあるが、大部分の子どもは回復し、普通通りの幸福な生活を送るようになる。

「これらの災害によって人々の生活は大きく変わります」と、ギブズは言う。「一部の人は以前の生活に戻れますが、以前の生活がもはや存在しない人もいます。そのような人は新しい考え方を構築しなければなりません。わたしはこのパンデミック後も同様のことが起きると予想しています。以前の状態に戻るものもあれば、完全に変わってしまうものもあるでしょう。変わってしまって悲しいこともあるでしょうが、ポジティヴに解釈できることもあるでしょう。これから新しい生活様式を模索していくのです」

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