今夏の全国高校野球選手権大会と、その代表を決める福岡大会の中止が決まり、県内各地から落胆の声が聞かれた。思い通りにならない現実に直面した現代の球児たち。戦争による大会中止を体験した元球児からエールが送られた。
「今までの2年間が無駄になってしまったのかな」。選手権大会の中止が決まり、久留米商の堤廉汰主将は落胆した。高校総体など各大会の中止が決まる中、覚悟はしていたつもりだったが、中村祐太監督から中止の知らせを聞いても「まだ信じられません」。
第1回大会に出場した伝統校は昨年の秋季大会でベスト8。前年のチームからの主力が多く残り、冬場の練習も充実していた。新型コロナウイルスの感染拡大で休校になってからも、主将が各選手の自主練習の内容をまとめて監督に伝えるなど、甲子園をひたすらめざしてきた。
学校が再開し、監督と選手が一堂に会するのは週明けの25日。堤主将は「何らかの方法で試合をする機会を与えてほしい。仲間と思いっきり野球がしたい」。中村監督は「試合と一緒でピンチをチャンスに変えないと。そういうメッセージを伝えたい」と話した。
東海大福岡の杉山繁俊監督は、大会開催にかすかな望みを抱いていたが、中止決定を知り、「力が抜けた」。緊急事態宣言以降、練習を中止して、76人の部員のうち寮に入っている25人を自宅に帰した。杉山監督は「部員から感染者が出たら地方大会の出場辞退もあり得る」と考え、「3密」を避けることや手指の消毒、うがいなどを徹底するよう指導してきた。緊急事態宣言の解除を受けて21日には寮生が戻ってくる。3年生とは個別に面談して「これまでの努力を褒めて、それが今後に生きることを伝えたい」と話した。
大牟田北の辻幸大監督は一斉休校となる直前の2月下旬、部員に日誌を渡し、それぞれに自主的な練習を促してきたという。大会開催を前提に近く練習を再開し、コンディションを調整することから始める予定だった。「どのように再開するか、一から考え直さないと」と話した。（宮野拓也、横川結香、宮田富士男、佐々木亮）
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浜嶋吉治さん（94）=山口県下関市=は戦時中の大会中止を経験した。
旧制小倉中（現小倉）の4年生だった1941年、当時の全国中等学校優勝野球大会が中止になった。浜嶋さんたち野球部員は授業が終わった後、部室に集められ、当時の主将から「甲子園は中止だ」と告げられた。福岡県では、県大会を準備していたタイミング。戦況悪化が原因で、自分たちにはどうしようもなかった。最終学年だった5年生の先輩部員たちから「残念やなあ」という声が漏れたのを覚えている。
浜嶋さんは翌年主将を務め、大会の再開を待ったが、甲子園への大会は開催されることはなかった。
浜嶋さんは、戦争の時代に生まれてきたことを「運命だと受け止めている」と振り返る。その上で今の球児に思いをはせる。「自分のせいじゃない。ただ、自分たちの青春時代に一生懸命にプレーしていた思い出を大切にしてほしい」
終戦後、旧制小倉中でエースとして活躍し、47、48年の甲子園で連覇を果たしたのが福嶋一雄さん（89）=北九州市小倉北区=だ。今回の中止で、戦争による中止の歴史を思い出したという。「自分ももう少し早く生まれていたら同じ無念を味わっていたはずだ」
甲子園で大活躍した福嶋さんだが、会社員となって思ったようなレベルの仕事ができずに壁にぶつかったこともあった。そんなときは、野球という一つのことに打ち込んだ経験が大きな支えになったという。今年の球児の無念を思いつつ、福嶋さんはエールを送る。「甲子園に替わる次の夢を胸の中に描いて進んでいってほしい」（川辺真改）
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福岡県高校野球連盟の野口敦弘理事長は「覚悟はしていたとはいえ、部員とその家族、指導者のことを考えるととてもつらい」と話した。特に球児には、かける言葉が思いつかず、目を見て話せないくらい申し訳なく感じているという。「時間がかかると思うが、いつかどこかで心の整理をつけて、前向きに歩き出して欲しい。この悔しい気持ちを今後の人生に役立ててもらえれば」と話した。
県高野連は今後の対応を話し合ったうえで、25日に記者会見する予定という。（渋井玄人）
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May 21, 2020 at 07:30AM
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