ヨーロッパを中心に、プーチグループ傘下の「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」の評価が高まっている。ジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)=クリエイティブ・ディレクターによるクリエイションがさえているだけでなく、バスティアン・ダグザン(Bastien Daguzan)=ジェネラル・ディレクターの指揮するリブランディングが功を奏し、売り上げは2017年から2年で3倍に伸びた。そして新たな一手として、パリコレ期間中の3月3日にはフォーブールサントノレ通りにテクノロジーを生かした新コンセプトの店舗をオープン。カンボン通りの旗艦店と百貨店のインショップ2店と合わせ、パリだけで4店舗態勢になった。3月中旬からは新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンの影響を受けて一時休業していたが、5月13日からアポイントメント制で同店と旗艦店の営業を再開。今、大きな変革期に立ち向かうダグザン=ジェネラル・ディレクターに、好調の背景やビジネスの現状から今後の展望までを聞いた。
――新店舗をオープンしたフォーブルサントノレ通りは、旗艦店を構えるカンボン通りにも近い。どのような違いがあるのか?
バスティアン・ダグザン=パコ ラバンヌCEO(以下、ダグザン):新店舗はカンボン通りの店を補完するもので、新たな方法での顧客体験をより重視した店になっている。今はアクセサリーやメンズなど商品ラインアップが拡大しているので、150平方メートルの店内はブランドの世界観に浸れる空間になっている。また従来のようなグローバルで統一された内装以上に調度品と「パコ ラバンヌ」ならではのオブジェを融合することによって、異なる小売りの在り方を探求するプロセスでもある。
――ヨーロッパでは約2カ月間店舗の一時休業が余儀なくされたが、ビジネスへの影響は?
ダグザン::3月中旬からヨーロッパでは店舗での販売をストップしていたが、その一方でオンラインは好調だった。新型コロナによる危機はどのブランドにも等しく影響を与えている。その中でまず私たちが向き合わなければいけないのは、小売り網と卸し先における20年春夏シーズンの過剰在庫だ。20-21年秋冬のオーダーに関しては前年同期に比べると伸びているが、新型コロナの影響で予算をカットしたクライアントもいてキャンセルが発生した。そして21年春夏に関して言うと、クリエイティビティーは維持しながらもソーシングやコレクションの規模など、これまでにないほど多くの問題を含めて取り組み方を再考する必要がある。セールスに関しては新たにオンラインショールームを準備しているし、従来型のランウエイショーというよりも、臨機応変なプレゼンテーションのような計画を進めている。
――最新の業績と伸張率は?
具体的な数字については明かせないが、一つ言えるのは17年から19年までの2年間で売上高が200%増になったということ。今年に関しては計画を見直すが、考え方としてはポジティブなままだ。特にオンラインでの売り上げが全体の50%を占めており、ブランドの成長を支えていることは間違いない。その背景には、より若い顧客の増加がある。
――現在の小売りと卸の割合は?そして、理想的なバランスとは?
ダグザン:現在も売り上げの大部分は卸だが、私たちはもちろん小売りを成長のチャンスととらえている。そのためこの半年間、ファッションとフレグランスを扱う自社ECの開設と新店舗や百貨店のインショップのオープンに取り組んできた。個人的には、この2つのチャネルのハイブリッドが現実的なオムニチャネルアプローチの上で有効な方法だと考えている。またブランドにとってのいい目標と見据えているのは、オンラインとオフラインのグローバルな小売り網で売り上げ全体の半分以上を生み出すこと。そのためにポップアップの戦略が重要であるのは明らかで、つまりそれは卸のネットワークの中で消費者に語りかけるとともに、ブランドの確固たる存在感を築いていくための方法だ。その結果によって、百貨店のインショップや単独店へと発展することができる。
――アクセサリーのラインアップも充実し、20年春夏にはメンズウエアもスタートした。商品開発についてはどのような考えか?
ダグザン:まずは、クリエイティブ・ディレクターのジュリアンとグローバルなクリエイションのプロセスについて深く建設的な話し合いをした。最初に決めたのは、ルック単位で考える前にアイテムを作るということ。そして、クリエイティビティーとより商業的なアイテムをどのように融合させるかを議論することが次のステップになり、消費者にとって価値のあるクリエイティブな提案を行うために私たちの関心を融合させる方法を生み出した。またリソースの配分に関する課題もあったので、新しいカテゴリーを本格的に始める前にウィメンズウエアにフォーカスすることに。その中で、アイコニックな商品を頂点に置いたピラミッドをつくり、クリエイティビティーの自由を探求するファッション性の高いアイテムからイージーウエア、アクティブウエアまでをそろえた。これらの柱ができたことによって、大幅なポジショニングの変更とソーシングの再配に加え、ウエア同様の方法でアクセサリーラインを探求することも可能になった。メンズウエアに関しては、ブランドとしてクリエイティブの新たな領域を開拓するための自然な流れだ。商品開発は長期的なプロセスであり、適切に行うためには次に進む前に明確な節目を定義することが重要だった。
――「パコ ラバンヌ」といえば、メタルパーツをつなぎ合わせたウエアやバッグの印象が強い。そういった象徴的なアイテムの重要性とは?
ダグザン:私たちの提案の中には“アイコンズ”と“エッセンシャルズ”という定番商品のカテゴリーがある。顧客はそれらの商品を求めて私たちのところに来てくれているので、新しいものを求め続ける既存のファッションシステムであっても、象徴的なアイテムを提案し続けるのは自然なことだ。「パコ ラバンヌ」のストーリーは長い旅路であり、ブランドとして毎シーズンのコレクションは新しい本ではなく、その中の新たな一章だと考えている。このような継続性があるからこそ、私たちは顧客の習慣との結びつきを強めるとともに、シーズンごとのクリエイティビティーを“アイコンズ”や“エッセンシャルズ”の中に組み込むことができる。また未来に向けた新たな意志を形にするため、自由なクリエイションを保つことにも配慮している。
――今は高い服を売るのがなかなか難しい時代だが、価格設定についてはどのように考えるか?
ダグザン:もちろん価格設定は重要。私たちは、17年から市場に出回るボリュームと効率性を高めるために価格帯を見直した。目指したのは、顧客にとっての適正価格を保ちつつ、クリエイティビティーを維持すること。また、より若い世代にも訴求したいと考えていた。その点において市場で正しい価値を持った商品でない限り、価格は明らかな障壁になる。最も難しいのは、提案と顧客にもたらす価値の妥当なポイントを見極めることだ。
――「パコ ラバンヌ」が属するプーチ(PUIG)グループには「ニナ リッチ(NINA RICCI)」や「ドリス ヴァンノッテン(DRIES VAN NOTEN)」もあり、全体的にアクセサリーよりもウエアに強い印象だ。グループ内での「パコ ラバンヌ」の位置づけとは?
ダグザン:「パコ ラバンヌ」らしさは明確だ。私たちは、ブランドのDNAに忠実なアイコニックな商品から大きな収益を生み出している。また、最初の拡大計画としてウエアに注力したが、現在はバッグやジュエリーといったアクセサリーが急速に成長していて、提案する商品、ボリューム、売上高のバランスがよくなっている。とはいえ、ビジネスの大部分を占めているのがウエアであることは変わらない。
――現在日本ではエドストローム オフィス(EDSTROM OFFICE)がセールスとPRを手掛けている。日本市場での拡大についてはどのように考えている?
ダグザン:日本では既存のパートナー(卸し先)と協力しながら、一歩ずつブランドを発展させていきたい。またオーガニックな販路拡大のため、パートナーたちと信頼関係を築いている。例えば、18年に私たちはドーバー ストリート マーケット ギンザ((DOVER STREET MARKET GINZA)とタッグを組み、日本の消費者に「パコ ラバンヌ」の世界観を体験してもらう素晴らしい機会を設けた。今後のステップとしては、オンラインまたはオフラインで消費者に直接アプローチすることが考えられる。しかし国際的な展開の前に、まずパリの新しい小売りモデルから私たちは学ぶ必要があるだろう。
――新型コロナ終息後の見通しは?
ダグザン:ファッションはこれからも私たちの身近なモノであるだろうけれど、スケジュールについてはアプローチを変えなければならない。実際、複雑なサプライチェーンのエコシステムの中で、時間を要するクリエイティブのプロセスとどんどん新しいものを求める流通のニーズの間には対立があるが、新型コロナのパンデミックの状況下でこのシステムはもはや有効ではなくなった。私たちは、そんなシステムを押し付け続けるよりもむしろ需要に適応しなければならない。さらに、ますます早期化するデリバリーに応えるという義務から脱して、よりタイムレスな方向へと移行する必要がある。私たちが考えなければいけないのは、長期的な価値、オーセンティシティー(真正性)、そして顧客エンゲージメントだ。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員
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May 31, 2020 at 08:04AM
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