ソニーが人工知能(AI)分野への投資を加速させている。AIを事業戦略の中核に据え、新組織「Sony AI」を11月に立ち上げたのだ。その“本気度”が、ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明らの言葉から浮き彫りになってくる。
TEXT BY WILL KNIGHT
TRANSLATION BY CHIHIRO OKA
いまから20年以上も前の1997年、当時ソニーのシニアリサーチャーだった北野宏明は、ロボットの競技大会「ロボカップ」の立ち上げに携わっていた。名古屋で開かれた第1回大会には、世界各地からロボットや人工知能(AI)の研究者たちが集まり、サッカーのトーナメントで競い合った。
大会初日、対戦する両チームのロボットがピッチの上を動き回りながら、周囲の状況を把握しようとしていたときのこと。試合はいつ始まるのかと、ある報道関係者が聞いてきた。北野は当時を思い出して笑いながら、「その記者に『5分も前に始まってますよ』と言ったんです」と語る。
当時はそんなもので、ロボットが自分の置かれている環境を認識し、次に何をするのか計算するには時間が必要だった。いまではすべてが大きく変わり、自律走行車から監視カメラまで、さまざまなものがAIのおかげで非常に効率的に動くようになっている。
「本気で挑戦するとき」がやってきた
現在はソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)社長兼所長の北野は、昨年11月に設立が発表された新組織「Sony AI」を率いている。ソニーはAIによってカメラやゲームなどが進化するだけでなく、料理のような未参入の分野でもロボットを活躍させることが可能だと考えている。AIは急速に進化しており、ソニーはこのテクノロジーを戦略の中心に据える必要があったのだと、北野は話す。
2月半ばにニューヨークで開かれたアメリカ人工知能学会(AAAI)の国際会議に出席した北野は、「ソニーには優秀なAIの研究者やエンジニアがおり、この分野で何が起きているかを十分に理解しています」と語った。「そして、いまこそ本気で挑戦するときであると決めたのです」
ソニーの動きは、AIの導入を進める大企業のなかでも際立っている。同社はAIの研究や利用という意味ではシリコンヴァレーの巨人たちに大きな後れをとるが、同時にグーグルやフェイスブック、アップルと比べて、コンテンツ制作やエンタテインメント分野に注力する方針を打ち出している。
ソニーは強化学習と呼ばれる手法に集中することで、米国のAI大手に追いつこうとしている。強化学習は大きな可能性を秘めてはいるが、まだ実験的な要素の強い手法だ。グーグルの親会社であるアルファベットやアマゾンも、この分野に巨額を投じてきた。
アルファベット傘下のDeepMindは強化学習を利用したAIによって、2016年に囲碁で世界最強の棋士を倒した。動物の行動を参考に、フィードバックのよし悪しに応じて自身を改良させていくアルゴリズムを含むプログラムが、人間に勝利したのだ。
強化学習の重要性
北野によると、ソニーは強化学習をAIの進化を支えてきたテクノロジーと「同じか、それ以上に重要」だと考えているという。そして北野は、「これこそが鍵になる」はずだと言う。
この技術は研究施設でのデモだけでなく、金融や輸送といった分野で実証実験が進められている。さらにロボットの自動制御や、仮想環境におけるソフトウェアエージェントの訓練などにおいても強力なツールとして活用が進んでいる。そしてとても面白いゲームのシナリオや、本当に生きているかのように振る舞うゲームキャラクターを生成する上でも役立つかもしれない。
強化学習はかなり以前から理論としては存在していた。それが、脳の学習プロセスを模したニューラルネットワークというアルゴリズムの開発と、大量のデータ処理が可能なコンピューターの登場によって実用化が可能になった。
ただし、的確に運用することは、まだ現時点では難しい。例えば、強化学習のアルゴリズムは報酬に固執するあまりに、無意味な反復行動を繰り返すことがある。
料理分野では最先端のロボット工学を応用
北野によると、ソニーのAI開発は大きく3つの分野に分かれている。ゲーム、センサー、そして少し意外なことに料理で、これは現在の事業分野と今後の方向性を反映したものだ。
ソニーは家庭用ゲーム機「プレイステーション」で知られるが、売上高で見るとデジタルセンシング技術やイメージング技術の占める割合も大きい。こうした領域におけるAIの活用事例を想像するのは、簡単だろう。
一方、料理分野では、最先端のロボット工学の応用を目指す。例えば、ソニーはこれまでにプログラムされた通りに料理を美しく盛り付けるロボットを開発したが、このシステムは将来的にプログラミングなしでも機能するようになるかもしれない。食品は形が不揃いなことが多く、取り扱いにも繊細さが要求されることから、ロボットにやらせるにはハードルが高いのだという。
ソニーにとってロボットは、なじみのある領域だ。ロボカップの第1回から2年後の1999年に、初代「AIBO」が発売された。この犬型ペットロボットには熱心なファンも多かったが、事業合理化の過程で2006年に販売を停止している。
その後、後継モデルとなる「aibo」が2018年に登場した。新しいaiboは物体や音声の認識機能を備えるが、それでもやはりどこか鈍い感じがすることは否めない。ちなみにAAAIで北野に取材したときは、ソニーの担当者がもってきたaiboが彼の後ろで吠えていた。
コンテンツ制作の時間を短縮可能に?
ソニーの投資に大きな期待を寄せる専門家もいる。カリフォルニア大学バークレー校のピーター・アビールは、「非常に理にかなっていると思います」と語る。アビールは産業用ロボットへの強化学習の応用を目指すスタートアップCovariant.aiの共同創業者でもある。
アビールは、ゲーム開発が時間とコストのかかるビジネスであると指摘する。その上で、強化学習をうまく活用すれば単純作業の多くをコンピューターにやらせることができるようになると説明する。
アビールは、CGキャラクターを作成する「DeepMimic」というAIプログラムを引き合いに出す。このプログラムでは、キャラクターが強化学習によって動作を学ぶ。例えば特定の場所で障害物を乗り越えるといったタスクを与えられると、それをやり遂げる方法を自ら考え出す。
つまり、ゲーム内のキャラクターの動きを自動化するだけでなく、プログラムしていない動作を偶発的に生み出すことすら可能になる。アビールは「コンテンツ制作にかかる時間を劇的に短縮できるかもしれません」と言う。
一方で、料理分野への応用で成果が出るのはまだ先のことになるだろうが、アビールはこの分野でも強化学習によってマシンのプログラミング方法が変わることを期待しているという。「ソニーがどのような取り組みをするのか非常に楽しみにしています」
AIの時代を先取りできるか
ソニーは、テキサス大学オースティン校教授のピーター・ストーンなどが共同で立ち上げたAIスタートアップのCogitai(コジタイ)に出資している。ストーンは初期段階からロボカップにも携わっており、シミュレーション部門でトロフィーを獲得したこともある。彼は現在、ソニーの米国におけるAI事業のトップを務める。
Cogitaiはソニーの傘下に入る前に、強化学習の導入を容易にするプラットフォームを立ち上げている。ソニーの研究者やエンジニアもこのツールを利用できるので、ゲーム開発やハードウェアの設計において新たなアイデアを発展させていく上で役立つだろう。強化学習への投資は、次世代の重要な技術に注力することでAIの時代を先取りするという、ソニーの戦略を反映したものだとストーンは説明する。
ロボカップを見ていると、この分野の進化のスピードを肌で感じられる。ロボットたちは驚くべき速さと正確さで動き回り、パスやシュートを繰り出す。それに、AIの未来を垣間見ることもできる。
ストーンは「知覚と教師あり学習で革命的な変化が起きています」と言う。「AIの自動意思決定モデルにも大きなチャンスがあると考えています。さまざまな場所で導入されていますが、ある意味で未開発の分野ですから」
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